耳赤・恥の一手 その4

参考図

正解は、右下白の一団から飛び上がる大ゲイマ「13の十三」(白32)でした。実利はなくともここを拠点に四海をにらむ。ザル碁の私には予想外でしたが、近い将来の夢に投資した厚み派・貴公子ならではの“当然の一手”だったかもしれません。

それを私が気まぐれに“予想外の一着”などと書いたものだから、「次の一手」だけでなく「亜Qレベルのザル碁の打ち手は言葉をどう使うか」といった余計なことに皆様を悩ませたようで、どなたも外していただいたのは、私にとってうれしい“予想通り”でした。しかし、「プロは力をためてジワジワくるのではないか」とのまーべらすさんのご指摘はまさに正鵠を射た感。ほんの10数年前には「将棋では強豪だけれど碁は初級者」だったのが、短期間で碁の実力を高めてこられたさすがに慧眼の持ち主でした。

あどさんとかささぎさんは、ズバリ下辺の打ち込み白33。たくせんさんは白A(いかにもたくせんさんらしい厳しさ)を候補に挙げられました。両者の違いをきちんと評価することはもちろん私にはできませんが、三線へ深入りすると相手へのダメージも破壊的だけれどそっくりモチコミになる危険もあります。その点、四線なら相手の対応次第でちょっとした利かし、様子見にも使えるかと思います。いずれにせよ、打ち込みは私でも想定内。左右に分断されても黒石は2つずつ一応の幅を持って待ち構えているし、右下三々の傷も問題が小さくなる。それどころか、まだ生きていない右下白の一団とのカラミも狙える!との言い分もあります。とは言え、相手はアマの碁敵ではなく第一線のプロです。まーべらすさんも言われていた通り打ち込みはとても怖かったけれど、「来るなら来い」とザル碁なりに悲壮な決意を固めていました。

新参加のこもりんは左上を戸締りする白Bのブラサガリを選ばれました。この着点はたくせんさんやかささぎさんも触れており、衆目の一致する好点だったようですが、私は全く考えませんでした(その意味では“予想外の一着”となるかもしれません)。確かにブラサガリは単なる地の手だけでなく、Cへの白からの打ち込みをより効果的にする狙いがあると思われますが、石が碁盤の下へ向かう。黒が中央へ向かうトビ(黒Dや黒Eあたり)と換わって、上辺への打ち込みの狙いと左辺を固める黒の調子を与える。何よりも、「互い先なら、左上を地にしていて十分だけど、逆コミが40目あるので、厳しく打たないと間に合いそうにありません」とのかささぎさんのご指摘の通り、紛れが少なくなるのではないでしょうか。

まーべらすさんが回答に挙げられた白Dは、白の金城湯池である上辺を盛り上げると同時に左辺への打ち込みを狙っているのでしょうが、黒はもう左辺にはこだわりません。喜んで左上三々に換わって白の実利を奪います。たくせんさんはいろいろと考え抜かれた末に白Fに回りました。上辺の実利確保という観点からは白Dよりも手堅い。実戦でこう打たれると困ることは事実ですが、ここで流れが止まって先手は完全に黒に回る。左辺を守る(Dあたり)、下辺を盛り上げる(黒32あたり)、右下三々を守ると同時に白の一団を上へ追い立てる18の十五下がりなどから選択することになりそうです。そもそもBのブラサガリもDのケイマもFのカコイも、白から先に方針を明示してもらえれば、黒からの対策も絞られて碁盤が狭くなる。逆コミ40目をいただいている黒としては歓迎できるのではないでしょうか。このあたり、ザル碁の私が陶酔して独り善がりに陥っている懸念が少なくないのですが、謙虚・寡黙といった私本来の美しい人柄を鉄面皮で覆い隠したので平気の平左なのです。

実戦の私は白32に大急ぎで(喜び勇んで)黒33と戸締りしましたが、貴公子によるとここは一路右上の13の十五コスミが形。次に黒から白34に迫る「耳の急所」を強調すべきでした。こうした“細部”にも碁の神様が宿っていなさるのでしょう。

実戦 第4譜

貴公子は次いで白34と連打。実利にはまるで無頓着に中央での制空権を握られました。逆コミ40目を与えたザル碁相手に何という大らかさ。プロならば誰でもこう打つものなのでしょうか。例えばアゴン・桐山杯決勝で貴公子と対局する足早な棋風のウックンならばどうか。これは貴公子独特の信念が具現化された着手ではないかと私は独りで納得、これこそ本手、碁の真髄ではないかと感じ入りました。これぞ、一流棋士の着想の一端に直接触れることができる指導碁の醍醐味です。私は感動の涙が溢れるのを禁じ得ませんでした。きっとそのせいでしょう。その後の私は凡手・愚手・アサッテのオンパレードを繰り広げます。

まず黒35は、左辺のウスミをぼかそうという苦心の着想。白に動いてもらってその調子で左下への侵略の味をつけようなどと勝手読みしていると、来るものが来た。右下三々へ白36。白32、34と構えた今になって18の十五下がり(白38のところ)と遮ることはできず、黒37と屈服。次いで白38には手拍子で黒39。打った途端にギャっと叫びましたが、もう遅い。左辺に白40と打ち込まれ、黒35の顔を立てたいばかりに左上三々へ換わらずに黒41とつながりを選びました。こうなれば白50までは一本道なのでしょうか、貴公子はこの流れに何も注釈を加えませんでした。亜Qの棋力・棋風は知り尽している。亜Qならばこの程度で仕方ないとしておこう、ということなのかもしれません。

次の黒51は第一感。しかし白52とツケられて悩みました。貴公子はこの黒51と次の黒53を後で褒めてくれたのですが、ここでの黒53を次の一手とさせていただきます。

亜Q

(2008.11.2)


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