耳赤・恥の一手 その6

実戦 第6譜

週末の15日はいよいよ阿含・桐山杯の決勝戦。名人戦7連戦を制し、王座・天元位をもうかがう日本囲碁界の第一人者、ウックンを向こうに回して貴公子が京都東山ドライブウエイ東に構える阿含宗総本殿で決闘を挑む。持ち時間は1時間。早碁でも抜群の強さを見せつけるウックンに、黙々と孤剣を磨いてきた貴公子がどう戦うか。

ウックンは3年前の名人戦で貴公子の師匠格に当たる小林覚九段を7連戦の死闘の末下し、義弟の山下敬吾棋聖・王座をもしばしば痛い目に遭わせているから、貴公子にとってはまたとない身内のリベンジの機会でもある。千寿会とその姉妹組織でもあるハッピーマンデー教室の有志と共に私も現地に応援に出かけることにした。その前に、「耳赤・恥の一手」本局に区切りを付けておきたい。

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前問の黒59、回答は上辺14の二に二段バネでした。次いで白60下アテ、黒61ツギ、白62カカエ、黒63アテ、白64ヌキまで換わって上辺を完全に割り、同時に上辺での黒の眼形づくりへの支援と8の四切り、9の三ノゾキなどの味を残しました。もちろん、最善かどうかは別問題ですが、貴公子は「機敏で無駄のない決めつけ」と、褒めてくれました。

これまで私は何回か「褒められた」と自慢しましたが、考えてみればこれは私がザル碁だから。もっと上手な人には褒めないだろうし、それどころか「部分的にはおもしろい着想だけれど全局的に見ると打ち過ぎかも知れない」などと叱られるかもしれない。学習者のレベルに応じて指導の仕方も変わる好例かもしれません。

さて、今回の出題で私の同調者(「正解者」とは言えません)がおられなかったのは少し意外でした。まーべらすさんとたくせんさん(第2候補)は「9の四ノゾキ」を挙げられましたが、私にはこれがノゾキになるのかどうか不明です。黒51をカカエる白7の六と換わり、もし黒が6の五と逃げ出したりすると白8の六とツガレて上辺の黒数子と左辺の黒壁一団が絡み攻めに遭う危険さえ感じるのですが。と言って黒51を逃げないとすると、ノゾキの意味がいま一つ理解できません。

あどさんは黒9の五ハサミツケをご指摘されました。9の四に比べて一路高いから上辺の黒の逃げ出しには有効だと思いますが、白に堂々と8の六へ立たれるとぁはり左辺への圧迫が気になります。私としては8の六の地点だけは白に譲りたくなかった。左辺に裕りを持たせながら白に上辺からの黒一団に近寄らせ、白54、56との間を割いて右方につながろうなどと生意気心を抱いていたからです。いざとなれば、上辺に眼形(少なくとも先手一眼ぐらい)の余地もありそうですし。

さっさと「黒12の八」に高飛びして「黒には弱い石はありません」と宣言する(たくせんさんの第1候補、あどさんの第2候補)のはとても有力に見えます。しかしザル碁の私は、黒63まで上辺の黒石はそれなりに補強されたし右上の黒一団との連絡も難しくない、むしろ左辺一帯の黒一団が壁攻めに遭うことを心配しました。それに、このあたりを打つなら、一路右の13の八の方が適当かもしれないのではないか。将来(まずあり得ないけれど)、黒14の十二、白14の十一、黒15の十二、白15の十一、黒15の十四トビツケというゴリゴリ攻めも狙えるかも知れません。

その意味から、かささぎさんが気乗り薄そうな顔つきで挙げられた2カ所のノゾキ、12の十二と3の十五はいずれももったいなくて打てません。私は展開次第では黒14の十二の中ノゾキ、さらに左辺を荒らされれば左下隅への侵入という下心を捨て切ってはいなかったからです。

白64までの交換の後、黒はかささぎさんが第一感で挙げられた黒8の六と二段にハネ、白に66(68へ二段バネできなかったのは黒63までの効果だと信じたい)と受けてもらいました。この時点で私は、「黒63までの一団と左辺一帯の黒が猛烈に攻められるといった余程の事態が起こりさえしなければ、逆コミ40目がゼロになることはない」とほっとしたことを告白しなければなりません。

以下の黒はガチガチになって手がまるで伸びていない。黒67は68へ押し切りたかったし、黒69に白70ときたら「断固10の六へ切って戦わなくてはならなかった」(貴公子)。その後の手順は省きますが、本局は大石が取られることはなかったけれど、大寄せに入って白にあちらこちら打ち回され、中寄せでそこかしこ食いちぎられ、小寄せに入ろうかという時点で私は40目の貯金を完全に吐き出して無念の投了。トホホのおそまつくんでした。

ところで、本局でご披露したザル碁に千寿先生が時折立ち寄っていただきました。着手のあれこれに直接言及されることはありませんでしたが、「亜Qならこう打ちそうね」とおそらく私の打った手をズバズバ当てられて苦笑されたことと存じます。たとえザル碁ではあっても、弟子にとって師匠に棋力と棋風を知っていただける喜びは何にも代え難いものです。

さらにこのザル碁にお付き合いいただいた変人諸兄の皆様(回答者ばかりとは限りません)、まことにお目を汚しました。次回は必ず、かささぎさんが渾身の名局を引っ提げて薫り高い「耳赤・恥の一手」をご披露されると信じます。以上で前座を終わらせていただきます。ありがとうございました。

亜Q

(2008.11.13)



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