シューコー先生の次の1手は?(解答編)

参考図
実戦黒19の後、白20と極普通にゆっくりと打ち、黒が下辺を手抜きした場合の進行例。

シューコー先生はまず出題局面までの流れを概説します。「左上黒9の後、白10とハサミ返し、黒11から4−十一のカケを防ぐ白12で左辺が白模様になる。黒13のトビが左上白への圧力になるので、白14と守ってとりあえず一段落して互いに様子見をすることになる。そして黒15から右下の定石が進行中」――。

初めにお耳を汚すようですが、出題者の考えを聞いてください。局面は左辺を未解決のまま、右上と左下も敢えて触らず、右下の2間高バサミ定石が進行して白18とすべったところ。私(亜Q)は何も考えずに「10−十七」を次の一手と見て、「何でこんなのが問題になんや?」といぶかしんだものでした。ところが、シューコー先生は「11−十七」こそ「この一手」と断じました。

わずか1路の違いとは言え、解説を聞くとその後の展開は大違いでした。「左下の白模様に対抗するため、黒は右上を中心に上辺や右辺に模様形勢を意図したいところ。ところが、右下の白が強いと、右辺は模様にしにくい。例えば白14−十四が加わって右下の黒が守りを必要とする、などという事態になれば、黒の右辺は弱くなるし、左辺のはっきりしない黒3子への影響も気になる。形になずんだ黒「10−十七」ではなく、「11−十七」と控えておけば、後の不安はない」。

本局の対局者は、数年前のNHK杯での活躍が印象に残る森山直棋九段(黒)と中部のベテラン、中小野田智巳九段。実戦で打たれた黒19は「10−十七」の大々ゲイマ。続いて白は13−十六ツケから持っていき、黒14−十五ノビ、白11−十六カタツキと「白のやや打ち過ぎ気味」に進みましたが、「この広い開きでは白20でごく普通に「14−十四」とゆっくり打っても、黒「12−十六」の守りを強いられ、白に例えば左上15−四のカカリに先攻されてしまう」というのがシューコー先生のご託宣でした。

黒が下辺を守らず、右上を15−四などと固めた場合の白からの狙いも掲げられていました(参考図)。「白aのハサミが厳しい。黒bの後、白c、黒dを利かせ、白eにトンで急戦を仕掛けることができる。下辺の黒が薄いだけ、白が戦える」。確かに黒は、左辺に根が生えていない3子と右辺に孤立した1子、さらに薄い下辺の三方をにらまれ、根がノーテンキな愚生でも気持ちが悪くて仕方がありません。

さて、皆様からのご回答を見ると、かささぎさんが愚生と同様、おそらく何も考えずに形になずんで「10−十七」を挙げてくれました。出題者としてはまことに喜ばしい限り。sekaigoさんは少なくとも「10−十七」と「11−十七」の違いに迷われた。悔しいけれど、我々二人よりもはるかに高等な思考と認めざるを得ません。ところが、たくせんさんはズバリ命中されました。多数の人が打つ「形」というものを日ごろからあまり信じず、わが道を1歩ずつ組み立てられていく長所を発揮されたのでしょう。おめでとうございます。

出題者から見ると、最高殊勲敢闘技能賞を差し上げたくなるのが梵天丸さんでした。実は私は出題に当たって小賢しい奸智を弄しました。始めの2日間ほど、手順を示さずに唐突に局面図のみを掲げたのです。手順があれば左辺は双方が一応一段落と合意して右下の定石に進んだのがわかるけれど、手順が示されていなければ、逆に「右下をいったん放置して左辺が進行中」とも見えるからです。

心美しきsekaigoさんは何の迷いも捨てて右下、右辺、右上に着目されました。しかし、我々3人(かささぎさん、たくせんさん、愚生)から日ごろ暴虐魔王タマキングとも呼ばれている深読み梵天丸さんは、「 解答が下辺ではつまらな過ぎる」「左辺ならば"戦いの前に"というヒントが腑に落ちない」などと迷われた挙句、もしかすると下辺や右辺に悪影響を及ぼしかねない、あるいはそれ自身味消しになりかねない左辺での行動を選ばれました。

いずれの手も本書にはまったく触れられていないし、愚生があれこれ言っても何の意味もありません。手の良し悪しは別にして、ひょっとするとご自身がおっしゃる「ピンはず」の可能性がなきにしもあらずというところでしょうか。それにしても、こうした出題者冥利に尽きるメイ回答をあれこれ繰り出す才能に溢れる梵天丸さんの稚気を、美しくも賢い奥様はこよなく愛されていることでせう。

亜Q

(2012.8.13)


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