シューコー先生の次の一手(2)解答編

参考図

タスキ型の布石で四隅が分割されているため大きな模様はできにくい。黒は5・7・9から13とカケて右辺に勢力をつくる狙い。白は14から消しを図り、黒はこの2子を攻めるため、17・19と右下を強化し、白はじっくり20と並んで力をためたところで出題図。

ここで「白石にぴったり密着させる黒1(14−十四)マゲで決める」がシューコー先生の次の一手でした。「黒の形は白の後をついていくため次の白2(13−十四)を良い手にするが、黒はそれを待って3(13−十三)ハネ、白4当然のハネ返し(12−十三)にも黒5(12−十二)と二段バネしてもたれる調子をつける。白が下辺から煽り立てていくほど、右辺の白が弱くなる」理屈だと言うのです(参考図)。

解答図=実戦

白がそれを嫌って白2(13−十)へ先に飛び出せば、黒3(13−十四)オシが厳しい。以下白4(12−十五)ノビ、黒5(12−十四)オシ、白6(11−十五)ノビ、黒7(11−十四)オシ、白8(10−十五)ノビキリと代わって黒9(11−十)ボウシまで(解答図=実戦)。「泉谷君会心の運び」と、本書43問中唯一、シューコー先生が激賞された碁でした。

さて、実戦で問題図の白20とじっくり並ばれた時、ノータイムで打つ人は少ないかもしれませんが、第一感はおそらく下辺の白石一団と右辺の白2子を完全に引き裂く13−十三あたりの着点が普通だと思われます。しかし白20と力を蓄えたところなので何かピンと来ない。14−十四マゲには思いが及ばないまま、14−十三、15−十二、14−十二などを悩んだ末の代替案として、「何のヒントもない実戦」ならば、小生に限らず多数の方は結局このあたりに打つことになるのではないかと思います。

ところが出題図の局面は「敵は本能寺」あるいは「将を射んとすれば〜」などとシューコー先生がのたまう意味深なヒントがある。となれば、何かもう少し気の利いた打ち方があるのではないか――。これが、「若きウェルテルの悩み」を昔愛読、今なお青臭さが抜け切らない小生なら申すまでもないことですが、オトナの良識をたっぷり持ち合わせておられる回答者諸兄をも大いに疑心暗鬼に陥れたようです。「悩んでいるのは自分だけではなかった」ことに勇気付けられ、出題者としてはまことに喜ばしい限りでした。

梵天丸さんは上辺の右側右上、かささぎさんは左上、sekaigoさんは右辺、そしてたくせんさんは下辺ツケを示されました。実は後に述べる愚生の回答を含めて、いずれも本書にはまったく触れられていない着点でした。そこでまことに畏れ多きことながら、愚生のたわごとをご披露させていただきます。まず梵天丸さんの14−四。これに対して、おそらく白は「ありがとさん!」と言って13−三に這う。この損失は結構バカにならないから、黒はかなり本気で白2子を(しかも大きく)取りかけにいくことになるでしょう。力強い梵天丸さんなればこその勇気ある構想に敬意を払うしかありません。

かささぎさんは左上星(4−四)に「様子見」。しかし右辺の白2子とは随分離れている現在、「なぜ急いで様子見しなければならないか」が愚生には今一つ釈然としません。言うまでもなく、ここは右側、左側、そして大上段(4−四星)と、三方からの迫り方があるところ。この局面で「星から迫る」と早々に決断できるのは、生まれつき高性能な透視眼鏡を体内に持つかささぎさん独特の予知能力なのでしょう。

「なるほどねぇ」と肯かされたのはsekaigoさんの16−八。この一手で右下と共に右上の黒も治まり形になったから、次に黒の大地が確定する17−十に白がヤキモチを焼いて押さえ、自ら重くなることはできない。と言ってこのまま飲み込まれのはさすがに大き過ぎるから、右辺から10−十三あたりへトンであてもない逃避行。白はいつまでも収まりがつかないでしょうが、黒は関西宇宙流・苑田九段流の「美人は追わず」に従って足早に大場に先行できそうです。

対局相手を最もギクッとさせるのが、出題前に愚生が「万が一正解が出るならこの人」と想定していたたくせんさん。何とも妙手っぽい12−十五ツケでした。白が下辺を大切にして12−十六と下をハネてくれたら12−十四に立って次に右辺の白への攻めと11−十六の気持ちの良いオサエが見合いと洒落込める。しかし白が反発して12−十四に上ハネしてくると黒は忙しくなる。ツケたばかりの黒1子を見捨てるわけにもいかず、かといって右辺と下辺からの白を楽に握手させたくもない。このあたり、たくせんさんのご高見を改めて伺いたいところです。

さて、生意気口をまくしたてた愚生も恥を忍んで告白しなければならない。我ながらいかにも猪口才な下辺11−十六ケイマガカリでした。「白からみれば少々痒そうな着点、ここから局面を動かすのもなかなかおもろいやないか」。白が黒の小賢しいカカリを無視して右辺からトンでくれば、13−十六と裾を払って右下の白の眼を取りながら下辺に実利を得る。13−十七などに受けてくれれば、12−十四にカケて下辺白の封鎖と右辺の白石への攻めを見合いにする。右辺の白はいつまでも浮き草稼業。黒はいつでも12−十四の1子を軽く見て(11−十六は大事にする)、左下星の黒と連動して全局を動かしていく――。うるさい古女房がそばにいないのを確認して、愚生は体操の内村金メダリストみたいな「どや顔」をしていたかもしれません。

ところが、嗚呼無情!我ら5人(愚生と一緒くたにしてごめんなさい!)の回答はいずれもシューコー先生の視野にも入っておられなかった。差別用語を使ってしまうけれど、「群盲象をなでる」。力を蓄えたばかりの白に密着させる黒14−十四マゲとは、やはりどなたもお気づきにならなかったようです。しかし、最近『週刊碁』に連載されている依田元名人が説く「筋場理論」から見たらどうなんやろか。早々に免許皆伝の依田扇子をゲットされたかささぎさんに教えを請いたいところです。

亜Q

(2012.8.23)


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