シューコー先生の次の一手(8)解答編

正解図

出題図(8)を前問(7)と比べると、(8)では白20と黒21を早々に交換し、(7)では白30サガリを急いでいます。全体の形はよく似ているけれど、左上からの侵略を軽減するか、強調するか、それぞれの立場から一手かけて違いが明確になっています。このあたりの駆け引きを知ることができて愚生には良き教材となりました。

正解は、黒1・3・5の三手セットでした(正解図)。「黒1・3は左下白を固める俗手だが、上の白模様を消すための非常手段。白が2・4を手抜きすると、黒2または4のハネが好形になる。白4を待って黒5とスベり、白模様のスソアキをとがめる。左下の黒が強いため、白から強い反撃はない」(シューコー先生)と言われてみれば、本問(あるいは愚生が加えた蛇足)に悩まされたらしい諸兄も深くうなずくしかないような気になりませんか?

へそ曲がりの愚生はここで二つの疑問を持ちました。恥を覚悟で打ち明けます。一つは、白2・4が余儀ないものとするなら、出題図白38が黒からの利きを誘発して問題だったのではないか。むしろ1路右の6−十六ケイマ、または6−十七1間トビなどと肩肘を張らない方が、(何か形がだらしないように見えても)黒に調子を与えないのではないか。6−十六ケイマには黒6−十五ツケ、6−十七1間トビには黒5−十六ノゾキなどがそれぞれ利くけれど、白が7−十七ノビとか5−十七に1回受ければもう利かない。正解図で黒が1・3と2本利かせて鉄板の厚みを形成したのに比べ、黒の厚みは不完全だったのではないかーー。

もう一つは、正解図黒3に白が手を抜いて3−十二コスミなどと戸締まりしてしまう恐れはないか。仮に愚生が何かの拍子でこの筋に気付いたとしても、例えば"居直り梵天丸"との異名を持つ憎い碁敵あたりとの対局では、黒1は打てても黒3ともう1本オス勇気は持ち合わせず、あわてて2−十一にスベルことになりそう。シューコー先生なら「黒3には白4と受けるのが当たり前」でも、愚生はこの時点で腰が引けてしまう。名人上手にとっては「まさか、そんなつまらんところへ目が行かない」というところで、ザル碁の悩みは尽きないのです。

参考図1 参考図2

正解図に続き、「白1の突き当たりには、黒2のノビキリで白地を荒らす。白3には黒4。以下白5、黒6まで左辺の白は隅につながらない。白3で6にトンでも、黒4のハネ込みで本隊の黒四子につながる。以下白4−十二、黒3、白5は黒4−十三切りで差し支えない」(参考図1)。一方、参考図2のように「白1コスミ、黒2、白3オサエには、黒4とコスミツケて低姿勢で渡る。続いて白3−十三、黒1−十三と屈服したようでも、左辺白への反撃が利くため、黒は白から攻められることはない。この形も左上の白地が大きく減っている」。

実戦図 実戦参考図

実戦は、黒1トビ。「隅の白を固めず、左辺だけで治まろうという考え」(同)。以下、白2とスソアキを守り、黒3・5と中から消して「これからの碁と見えるが、実は白2・4が疑問。白4はaが良い」。あくまでも白模様を大切にせよということでしょう。

シューコー先生はさらに、実戦参考図に示す別法を推奨されました。「白2が働いた形。多くの場合、相手を固める悪手になるが、この場合は左辺を守る非常手段。黒3なら白4で左上がほぼ確定地になる。隅の白も黒に攻められる形ではないから白が楽をしている」と、実戦の進行に辛口の評価を呈されていました。

さて、皆様からのご回答を拝見いたします。今回も梵天丸さんが切り込み隊長。本題のまさに「へそ」とも言える黒2−十一スベリを指摘されました。自らを「ピンはず」とご謙遜されていますが、それどころか常に心臓部をかする「ピンかす」の面目躍如といったところでしょうか。この「ピンかす」は、sekaigoさんも継続されており、今回は奇しくもお二方が同じ意見に落ち着かれました。続いて白3−十一ブツカリに対しては2−十二と引いて辛抱し、白2−十オサエを待って黒9−八と上から消す流れを「名(迷)調子に見えてきた」と率直に語られます。梵天丸さんのこのおおらかさこそ、美しい奥様が愛されてやまない由縁でせう。とは言え、正解図黒1・3の下準備を省いているだけに、白3−十一ブツカリに黒2−十とノビ込めない。つまり、下からの荒らしの不十分さを上からの荒らしで取り返せるかどうかは愚生にはわかりません。さらに左下の黒も、2−十二と引いて辛抱したのにそこだけで完全に活形を得たわけでなく、その後の打ち方に多少の制約を受けるのかもしれません。

たくせんさんは、黒3−十一ツケ、白3−十オサエ、黒3−十二ヒキ、白固ツギ(またはカケツギ)を示されました。これも梵天丸さんのご回答と同様、少なくとも白は十の線で模様を地固め完了です。シューコー先生はどうやら「これで十分」とされているのかもしれませんが、ザル碁の愚生にはもちろんわかりません。たくせんさんは別法として、いきなり黒6−九に臨むというさらに過激な手段にも言及されました。白からの猛反撃は承知の上で、三国志にでも出てきそうな「豪傑たくせん」が獅子奮迅の活躍を大向こうに披露されることになるのでしょう。

実はこのご回答以上に愚生の琴線に触れたのが、「風流たくせん」お手製の次の歌(「」は愚生が勝手に追加しました。ご寛恕を!)。

烏鷺競う玄(プロ)の好手も素(アマ)悪手
「真逆(まさか)」が「まぎゃく」に変わる世の中

かささぎさんは、梵天丸さんと対を成すような逆の流れを示されました。まずは黒9−八と上から臨み、白が下辺オシ(5−十五)から黒二子に襲い掛かってくれば黒2−十一とスベって「命までは獲られんやろ」と高をくくる。ところが黒9−八に白が手を抜いて4−十三に迫って来られたら困るとすぐに反省され、この形でしばしば目にする定型5−十二肩ツキを選択されました。以下、白5−十一オシ、黒6−十二ノビ、白6−十一と押し上げるのに手を抜いて黒9−八に回る。まさに深い谷間の上空を飛翔するカササギの姿ですが、やはり白は十の線で何とか持ちこたえているようにも見えます。正解図と比べればやや遠慮しているように思えなくもないところです。

さて、ここで「黒2−五」とは!ジャカルタ帰りのパパがまたまた魅せてくれました。白2−四と目一杯抵抗してくれば黒3−九ツケから白の地模様の中でかき回す手段を見る。白2−六オサエならもちろん黒3−六と切り違ってサバキに苦労せずと開き直る。白が3−六と妥協すれば、4−四出または2−三ハサミからの大きなヨセが残るから、悠々と黒3−十三または3−十二から左下の治まりに向かう。愚生が白を持てば、意表のツケ一発に狂乱し、模様は跡形もなく破壊されるでしょう。ただ、愚生ではなくプロ棋士やアマ高手を相手にこのツケがどこまで威力を発揮するのか、白に喜んで2−四とオサエられて大変な味消し、持ち込みになりはしないか――。愚生は判断を控えさせていただくしかありませんが。

亜Q

(2012.10.29)


もどる