夢は稔(みの)り難く〜京都御所に雨が降る

蝸牛庵

京都御所の公開最終日の11月16日、千寿会有志とともに見学に訪れた。御所は四季折々の目を楽しませてくれる樹木や草花を築地と枝折戸が隔て、池が回遊する長方形状に構築され、順路に従って紫辰殿、蹴鞠の庭、東の風がいつも吹き込む避暑のための別棟、平安時代の女御、更衣たちが遊んだ絵合わせの間、明治天皇が日常使われた部屋、そして紫式部や清少納言が楽しんだと言われる囲碁の間などをぼんやり眺めて廻った。

この日は柔らかい雨が日がな降りしきり、見学者たちの熱気を静かに吸い取る風情。京の時雨(しぐれ)と言えば底冷えが定番なのに、なぜか人の体温を感じさせるぬくい雨。もしかすると、“涙雨”だったかもしれない。

前日の15日は打って変わった小春日和。京都・東山の阿含宗総本山の「蝸牛庵」で第15期阿含・桐山杯決勝戦が行われた。プロ・アマを含む三百数十名が参加した日本最大のオープン碁戦を勝ち上がってきたのは、日本囲碁界の第一人者にしてこの棋戦2連覇を果たしているウックン名人・碁聖と千寿会講師を務める東の貴公子・高梨聖健八段。

会場にはざっと300人ほどの観衆が大広間に座り、我が敬愛するオーメン九段と青葉かおり四段の大盤解説を見入っている。この場には、貴公子の母上と愛妹の聖子さん(山下敬吾棋聖・王座夫人)のほか、千寿会とハッピーマンデー教室から男性6名、女性4名、さらにホテルニューオータニ教室のレディーが数名、貴公子の応援に駆けつけた。

阿含・桐山杯第15期決勝 張栩ー高梨聖健(先番)

黒番を当てた貴公子が2連星を敷くとウックンも2連星で対抗。黒が左下星の白に小ゲイマにカカルと白一間バサミから定石通りに進んで白は下辺に確定地を得、黒は厚みを築いて右辺星へ芯を入れる(黒19)。その後黒23まで互いに四線の大場を占めると、白は一転して右下星の黒へ小ゲイマガカリ(白24)して中盤戦が開幕。

会場では白82(7の五)を「次の一手」に出題。この時点で黒が三隅を占め、白は左辺から下辺につながる確定地と上辺の地模様で対抗。素人目には白が打ちやすいように見えたが、黒は左上三々オキ(黒83)から手順を尽くして黒119(6の七)まで中央左に15目ほど見込まれる中地を形成。オーメン九段は「黒が優勢」と明言してくれた。

ところが白のウックンはただいま絶好調。名人戦七番勝負を制した勢いを山下王座と河野天元との挑戦手合い3連勝につなげてこの日を迎えた。白122(11の八)が渾身の踏み込み。「それは許さん」と外から押さえた黒123がどうやら敗着になったらしい。15目ほど見込まれた中地が見る影もなく痩せ細ってはコミを出せなくなった。オーメン九段によれば、じっと中から10の八と押さえておけば黒が勝っただろうという。

解説会場

惜しくも頂上に届かなかった貴公子に、愛を込めてこの歌を贈ろう。

夢は稔(みの)り難く
敵は数多(あまた)なりとも
胸に悲しみを秘めて
我は勇みて行かん
道は極め難く
腕は疲れ果つとも
遠き星をめざして
我は歩み続けん
これこそは我が宿命
汚れ果てし この世から
正しきを救うために
如何に望み薄く 遥かなりとも
やがて いつの日か光満ちて
永遠の眠りに就く時来らん
たとえ傷つくとも
力ふり絞りて
我は歩み続けん
あの星の許へ

  —福井峻訳「見果てぬ夢」騎士遍歴の唄(ラ・マンチャの男)

亜Q

(2008.11.19)


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