阿含・桐山杯で棋士同士の麗しいエピソードを思い出しました

第15期阿含・桐山杯は京都御所に“涙雨”を降らせて終わりましたが、歴代タイトル者の顔ぶれがすごい。前身の「アコム杯」5期を含めると、王立誠、加藤正夫、依田紀基、小林覚、小林光一、趙善律、趙治勲、羽根直樹、ウックンらの三大タイトル者、そして日本碁界のホープ、井山悠太という面々。面白いことに、チクン、ウックン、覚といった大棋士でさえ最初の挑戦では敗退(チクンは3連敗、ウックンは2連敗)しています。貴公子もこうした先輩連に倣って何とぞリベンジを果たしていただきたい。

初挑戦でタイトルを2連覇したのは故加藤正夫元名人・本因坊と趙善律元本因坊。このソンジンさんに研究会の先輩格に当たる小松英樹九段が阿含・桐山杯の話をされていました。時はソンジンさんが阿含・桐山杯を初めて獲った2000年末、場所は四谷荒木町あたりのスナック。千寿会講師の剱持丈七段、現日本棋院理事の信田成仁六段らに私を含む囲碁会アマ有志が市が谷から流れ、小松さんたちはおそらく小松研究会を引き上げた後だったかもしれません。英子夫人、河野光樹、ハン・ゼンキ七段らもおられた気がします。

私は既にほろ酔い機嫌で細かいことは覚えていませんが、概ねこんな調子でした。「まあ聞け、ソンジン。囲碁棋戦で何が最高かわかるか。それは阿含・桐山杯だ。何しろ賞金額が三大タイトルと十段、天元、王座に次ぐ1000万円。碁聖(777万円)と女流棋戦をはるかにしのぐ(最高の女流本因坊でも580万円)。しかも大きな棋戦はすべて番碁で戦うし、持ち時間も長い。それに比べて阿含・桐山杯は予選2時間、決勝1時間半で片が付く。コストパフォーマンスが最もいいのだ。だからソンジン、どんな時も精進を怠ってはなるまいぞ」(うろ覚えのため不正確の段はお詫びいたします)。

これを聞いたソンジン九段はさっそくカラオケマイクを握り、槙原敬之がヒットさせた「どんな時も」を高音の美声を張り上げて歌いだしたのです。先輩と後輩の棋士同士が見せた何と麗しき心の交流でせうか。私はこの光景を決して忘れまいと深く誓ったものでした。そしてソンジンさんは先輩の教えを守り、次の年の阿含・桐山杯も制したのです。

亜Q

(2008.11.20)


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