東男と京女

 「東男(あずまおとこ)と京女(きょうおんな)」。男は関東気質、女ははんなりとした関西風が好ましく相性も良いといった意味らしい。昔からの言い伝えの当否など私にはもちろんわからないが、「東」を「将棋」に、「京」を「囲碁」に読み替えると、いかにももっともらしく思えてくる。

 この3月13日、日本棋院関西総本部の佃亜紀子四段(33)が将棋棋士の伊奈祐介五段(29)と結婚した。『週刊碁』3月28日号によれば、囲碁と将棋の棋士同士の結婚は、荒木真子三段&脇謙二八段、宮崎志摩子四段&中川大輔七段、穂坂繭三段&先崎学八段以来の4組目とのこと。何と、いずれも「将棋男と囲碁女」の組み合わせ。これは偶然だろうか。

 囲碁は19路、将棋は9路。初期条件、将棋は駒の能力や最初の配置が決まっているが、囲碁の方は自由度が高い。さらに将棋は獲った駒を再活用できるが、囲碁では取った石は碁笥にしまい込まれる。何よりも異なるのは、囲碁は最終的に双方の地を比べるのに対し、将棋は早く相手の王を詰めた方が勝つ。

 将棋は単刀直入に勝負が決まりやすいが、囲碁は一筋縄ではいかない。そのせいか、将棋の方がとっつきやすい、あるいは早く上達しやすい半面、碁の方が高齢まで息長く上達できるとも言われる。私の限られた経験では(結構強くなってからでも)将棋から囲碁に移行する例はかなりあるが、その逆はあまり聞いたことがない。

 以上から「将棋は男らしく、囲碁は女らしい」と結論付けるとすれば、今回の例もまた定石が打たれたに過ぎない。むしろ注目すべきは新婦アッコの変貌ぶり。思い起こすのは『碁ワールド』誌の創刊第2号で1歳年下の弟弟子ケメオが激白した1999年9月号。当時調子が上がらなかったアッコに誰かが飲み会で「ダイエットのせい?」と尋ねた一言がアッコのピッチを異様に高めたという。

 すっかり出来上がってスヤスヤ寝入ったアッコをケメオが背負って帰宅途中、急に苦しがり始めたので救急病院に運び込んだところ、正気づいた彼女はしっかりしたところを見せようと当直の医師に叫んだらしい。「大丈夫ですぅ、点滴なんていりません。でも打つなら“100cc”までにして下さい」と。医師はすぐに見抜いたらしい。「無理なダイエットは対局に差し障りますよ」。

 あれから幾星霜。京都のホテルでリムジンを背に新夫に寄り添うアッコのスマートな姿は誠に天晴れ。必ずや成績は急上昇するだろう。今ひとつはじけないように見えるケメオも彼女を見習わなくてはいけないが、数少ない女流棋士をいつも将棋の棋士にさらわれる男性囲碁棋士に挽回の妙手はあるのだろうか。

 それがあるのだ。ナッチ&シンディーという飛びっきりのモデルがいた。結婚した昨年は年間最多勝タイトルを獲得、今年に入って最大の目標・本因坊リーグで怒涛の6連勝。この夏には豪邸が完成するとの噂も。どうやら今年は、大学の囲碁部OBいやOG女性&関東の男性棋士の組み合わせが増える予感――。

亜Q

(2005.3.24)


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