こうもりは群雄割拠を選ぶ

どうやらかささぎさんは、この私を“隠れ巨人”ではないかと邪推しているらしい。でも自分がコテコテの虎キチだからといって、他人もどこかの熱狂的ファンだと決め付けるのはいかがなものか。黒か白か、正か邪か、美か醜か、真か偽かといった単純明快な二者択一の論理ではこの世は諮れない。ああでもない、こうでもない、こうも言えるがああも言えるといった複雑高度な思考を常にめぐらせながら隠微な巷を飛び回る私のようなこうもり人間もいるのだ。

なるほど私は、球場でもテレビ・ラジオでも巨人の試合を最も見聞きしてきた。与那嶺、千葉、青田、川上、南村、宇野(柏原)、平井、広田、別所、大友、中尾(大相撲なら羽黒山、東富士、千代の山、鏡里、吉葉山、栃錦、三根山、朝潮、若ノ花、琴ヶ浜、松登、大内山…てなもんや)といった往年のメンバーも思い浮かべられるし、歴代のエースや四番バッターをおそらく人よりたくさん挙げることができる。嗚呼、あの日の天才少年(学業を除けば)今いずこ!

だからといって、巨人一辺倒ではない。むしろ戦力的に弱小なチームや選手が健気に頑張っている姿が好もしい。例えば江川より西本・小林、長島・王より土井・黒江、現在なら工藤、木田、山本昌、石川、建山、MICHAELらのヘロヘロ球投手、野手なら松本、平野、荒木、青木、東出らのしょぼい安打量産打者。米大リーグではウェイクフィールド、モイヤーらのロートルが大好き。特に下柳投手のように、パ・リーグ時代は中継ぎ役として超酷使に耐え、阪神では皆が嫌がる背番号42を付けて淡々とゲームメーキングする姿勢には毎度しびれている。柔よく剛を制し、群雄割拠のペナントレースこそプロ野球の魅力だと思っているのだ。

その兆しが碁界にも現れたと言っていいのかどうか。大学を出て医師免許を取得してからプロ入りした坂井秀至七段(八段に昇段)がチョーウ四冠から碁聖位を奪取した。ここ数年、チョーウ、山下、羽根、高尾(以下敬称略)の四天王に井山、河野臨あたりで七大タイトルを回していた感がある中で、初タイトルの新顔登場は今一歩タイトルや挑戦権、リーグ入りに届かなかった不遇の実力者を勇気付けるに違いない。特に少年時代から坂井と切磋琢磨してきた結城、同じ関西棋院で本因坊リーグ入りを果たした瀬戸らには大きな刺激になるだろう。坂井や瀬戸のような冷静で間違いが少ない棋風は中韓二強に風穴を開けるかもしれない。もちろんお二人をヘロヘロ球投手にたとえているわけではありません。

こうした若い棋士たちの群雄割拠による平成戦国時代の到来は待望久しいものがある。と言いながらこの際、ロートル組による逆襲もひそかに願うのが複雑高度な私の性格。チクン大棋士、光一・覚の両小林、立誠、片岡、山城、オーメン、もちろんその上の大竹(理事長兼務ではさすがに無理か?)、林、石田、武宮、さらに下の世代では依田、柳、ソンジンらがもう一花咲かせることはできないか。その意味で王座挑戦を決めた山田規三生(9月で38歳)が若きころのブンブン丸から今や中年の星として狼煙を上げるかどうかが逆襲への一里塚になるだろう。

ただし一般論として、いざタイトルとなるとどうか。確かに彼らは今でも実力者だし、三大棋戦リーグで活躍している人も少なくないが、三大棋戦の場合、A~Cに分かれた全棋士参加の予選を勝ち抜き、リーグ入りしても8~10人のライバルの中で最高位の成績またはプレーオフを勝ち抜いてやっと挑戦権、さらに七番勝負という長丁場。その他の四棋戦でもほぼ同じ。この間、何勝すればタイトルに届くのか。中年、熟年となって青年・壮年としのぎを削りながら42,195キロメートルを走り切るのはかなり難しいのではないか。プロ野球なら疲れたり不調になれば休んだり交代できるが、碁は最後まで自分ひとりで戦い抜くのだから。

そこで不肖私は考えた。現行タイトルの主力となる七大棋戦は多少の工夫は認めるが、どれも似たり寄ったり。思い切って高齢・熟年や女流棋士を優遇する棋戦があってもいいのではないか。例えばこんな仕組み。20代、30代は現行通り全棋士が予選Cから予選Aを経て上位4人が生き残り、40代から50代前期までは前年の活躍実績に応じて選抜された32人から2人、50代後期以上の高齢棋士および女流棋士は同じく8人から各1人が勝ち残り、それぞれの世代を代表する8人が本戦トーナメントで挑戦者1人を決める。この方法なら、若年層は5~6連勝、中年層は4連勝、高年・女流は3連勝で本戦トーナメント入りが叶う。もちろん、持ち時間やコミは一切同一条件だし、若年層4人を含む本戦トーナメントを3回勝ち抜いて挑戦者になるわけだから、高年や女流枠だからと言って何ら貶められることはない。ただし、上記グループ分けに当たっては、棋士の数、活躍実績などによって仕分ける統計数学の専門家の知恵を借りた方がいいだろう。それと、実績に応じて参加資格をもらえない女流や中年層以降への対策なども講じる必要があるかもしれない。

新趣向を試す棋戦には王座戦(日本経済新聞社主催)あたりが適していそうだ。歴代タイトル者には、宇太郎・昌二の両橋本、高川、坂田、島村、半田、朋斎、宮下らが名を連ね、比較的最近では工藤、羽根パパ、さらに秀行老師は60代になって羽根パパからタイトルを奪取し、小林光一挑戦者との防衛にも成功しているなど、なぜか中高年・熟年層の活躍が目立つ。それに日経新聞の歴代社長には囲碁を愛好する人が少なくなかったようだし。観戦記者の木村亮さん、OBの表谷さん、いかがですかぁ?

亜Q

(2010.8.29)


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