我が妄想〜チクン大棋士考「はじめに」

この春、日本碁界の若きリーダー、山下敬吾棋聖(27)を3勝1敗で撃破して十段位を防衛、囲碁界未踏の記録を更新する通算69個目のタイトルを獲得したチクン大棋士(49)を、日本経済新聞が夕刊コラム「人間発見」で5月末から5回にわたって連載した。筆者は観戦記者も務める同社文化部の木村亮編集委員。

いつも書いている通り私は棋士なら誰でも好きだが、中でも気になる存在として三本の指から絶対に外せないのがチクン大棋士。大盤解説などで見せる独特のチクンワールド、パーティーなどで聴衆を3回は笑わせる軽妙な挨拶には気配りが周到に行き届いたユーモアの中にちらりと潜ませるオトナ好みの辛くて苦いテイストに満ち溢れている。アマへのサービス精神と碁を愛する熱情をごっちゃ混ぜにした生のチクン魂が私の心の琴線にじかに伝わってくるのだが、「そうだったのか〜」などと彼の話を鵜呑みにすると、「おやおや、まさか本気にしたのではないでしょうね」などとどんでん返しを食らいそうな伏線が秘められているようで油断がならない。ま、こんなところもオトナ好みの所以だろうが。

同コラムでも、「(山下君には)若さへの恐れのようなものがあり、顔も見たくなかった。(交通事故の後遺症で正座できない自分と違って)山下君は対局態度もいい。タイトル戦が始まる前は諦めの心境でした」などと殊勝気に話すかと思えば、一転して「(今回の防衛で)勝負はまだこれからという思いはある」と闘志をむき出しにするなど、いかにも本音を語っているようで実はどこまで本気にしていいのか相変わらず迷わせてくれる。私が刑事コロンボになったとしてもチクン大棋士が真犯人なら絶対に取り逃がしてしまうだろうし、彼が名探偵明智小五郎で私が怪人二十面相なら「ワッハッハ、わかるかね明智君、ではさらばぢゃ」などと叫んで断崖絶壁から身を躍らせるしかないだろう。

とは言え、チクン大棋士に限らず、私が見聞きする碁界の情報はまるでひとかけらに過ぎないし、伝聞のまた伝聞で不確かなことだらけ。コラムの記述をなるべく生かしつつ、私が聞きかじった話や中年オジサンの妄想をまぶしてみたい。資料を調べたり、裏づけ取材し手確認するなどの手間は面倒だから、直感的に正しそうな、あるいは面白そうな筋に話を飛躍させて勝手なチクン大棋士考を展開させていただく。縁あってこれをお読みいただく賢明なる変人(?)の方々は、例によって“ごみ分別”(この意味は以前に書いた「カモメのジョーさん」の前半に記しましたので、ご参考まで)のほど、よろしくお願いします(例によって敬称は略)。

亜Q

(2006.6.6)


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