中国の囲碁外交

中国碁界がスタートさせた地域対抗リーグ戦がなかなかの盛り上がりを見せている。
注目されるのは国外から“助っ人”を招請して最強メンバー確保に意を尽くしている点だ。
対局数に制約はあるようだが、李昌鎬、゙薫鉉ら世界最強クラスを呼ぶとは半端ではない。
米メジャーリーグが各国の逸材を集めるように、“碁の本場”回復が真の狙いかもしれない。

さらに今度は、長年中国が目標としてきた日本の林海峰九段に白羽の矢を立てたらしい。
今年5月で還暦、史上最年少名人、二人目の名人本因坊、名誉天元など勲章は数知れない。
しかも名人リーグに連続在籍し、昨年は59歳で名人挑戦を実現するなど衰えを見せない。
世界選手権優勝など、国際棋戦での実績も申し分ない。言葉の障壁がないことも強みだ。

とは言え、中国リーグで活躍しそうな人、あるいは“安く呼べそうな若手”はまだいる。
羽根、張ウ、山下らリーグ戦在籍者は難しいが、高尾、河野臨、秋山、溝上、瀬戸がいる。
実績や知名度は林に劣っても、体力とハングリー精神、言葉は悪いが“使い勝手”に勝る。
長い目で見れば、将来にわたって囲碁を通じた日中両国のパイプ役になる可能性が強い。

林招致の真の理由は“台湾出身”だからではないか。とすると思い当たることが多い。
林は王貞治とともに、日本を舞台に世界超一流の座を獲得した当代の「台湾の英雄」。
門下に張栩、林子淵ら有望な台湾出身の若手を抱え、日台両国の掛け橋的な存在である。
その林を、日本棋院という組織、囲碁という世界文化を通して中国社会に溶け込ませる。

中国と台湾は対外的には「一つの中国」が建前だが、関係は何かとギクシャクしている。
国際的な政治・外交舞台では強面の持論をぶち上げ、水面下ではあれこれ懐柔策を講じる。
中国碁界の英雄・聶衛平が日本棋院の重鎮・林に参加を呼びかけたのはあくまで表面上。
かつて国際社会復帰に玄妙な効果を上げた“ピンポン外交”を想起させる「囲碁外交」だ。

この際、日本碁界空洞化や本場の座を明け渡す懸念といった一国中心主義は捨てよう。
人類が誇る世界共通の知的文化発展のために、さすが大人の国の大局判断と評価したい。
中国の社会的な基盤は日本より遅れているが、碁に関しては国を挙げて力を入れている。
米大リーグと同列には扱えないが、国際舞台に飛び込んで武者修行する若手を待望したい。

K

(2002.1.30)


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