頭のいい女性は料理がうまい

本年度の最優秀賞率タイトル獲得棋士は誰でしょう?『週刊碁』の勝ち星ランキングを見ると、ご存知・ウックン名人・王座・碁聖が9月15日現在、37勝8敗、2位につける山下敬語棋聖が37勝16敗。勝ち星上位者で勝率も目立つのは、新鋭向井チアキ初段の24勝7敗、首藤瞬四段の23勝7敗、林漢傑六段22勝8敗、仲邑信也八段と松本武久六段の20勝7敗。いずれも、勝率ではウックンに遠く及ばない。ところが勝ち星20位以内にまで目を通すと、中根直行八段が前棋聖を最近撃破するなど、何と19勝4敗ではないか。ウックンの勝率を堂々と上回っているのだ。

その理由は明々白々。韓国から来日して日本でプロ棋士になった金賢貞(キム・ヒョンジョン)三段とこの4月に結婚して食生活が一変したからだ。写真で見る通り、中根八段は人一倍栄養を必要とするタイプだから、結婚の効果は計り知れないほど大きい。

何しろヒョンジョンの料理は評判がいい。師匠の吉岡薫七段によると、彼女は日本女性以上に根っからの“大和撫子”。故国自慢のキムチ鍋はもちろん、仲間が集まった時などに手早く用意する酒の肴や小料理、おなかがちょっと物足りない時にさりげなく出してくれるお椀物など、時々の状況に応じて何でもござれらしい。もちろん、味については同時期に内弟子生活を送った下島七段はもちろん、関西総本部のライバル「つくんこ」「いざわっち」が太鼓判を押している。関西弁がきらりと光るお二人の文章にはいつも感心させられるのだが、とりわけ食べ物の話になると迫力を増すから、読むだけで是非とも当方もお呼ばれしたくなる。

そう言えば、「頭のいい女性は料理がうまい」という定説があった。それもそうだろう。料理は食材、そして食べていただく相手との勝負とも言える。様々なTPOに応じてこの相手に打ち勝つには、頭が良くなくては絶対に無理。となれば、女流棋士の料理ほどうまそうなものはない。てなことを書いているうちに、我が妄想がふつふつと湧き上がってくるではないか。ムフフ(以下は、あくまでも仮の名前で実在の棋士とは一切関係ありませんので、どうぞよろしく)

例えば若き恋人、カナたんとのピクニック・シーン。お弁当はカナたん自ら天城を越えて収穫してきたキノコをたっぷりと炊き込んだご飯を小さい手に力を込めてソフトボールみたいに大きく握って海苔をかぶせたおむすび。私はひたすら黙々と頬ばるのみ。カナたんがじっと見上げる可愛い目をちょっぴりまぶしく感じながら。

恋女房のトモコとはこんな具合。「今夜のおかずは何だい?」「あなたの好きな白身魚の薄造りに極上かまぼこをあしらいました、ウフフ」——。そして、秋の夜に歯に染み通る酒は、差しつ差されつ「完熟美人」(そんな銘柄があったかしら?)。

チーママは当然ナンタラカンタラ・プルゴーニュ風だかリヨン風だかのフランス料理。「セ・ボン!」「ケスクセ?」「トレビアン!!」「メルシボクー!!!」などとありったけのフランス語をゼスチャー入りで駆使しつつエスプリの効いた会話を楽しまなければならないから、味加減まで頭が回るかどうか気になるところ。

テレビの囲碁番組で活躍するきれいどころには粋なカクテルでも所望しようか。いつもさわやかないざわっちにはジンフィーズ、ホンダ何とかマシンを乗り回すマッキーにはスクリュー・ドライバー、みえちゃんにはマンハッタン、いやブラディー・マリーがいい。もちろんお三方には超ドッキリのバニー姿になってかしずいていただく。

私の密かなご贔屓、シブシブのマッチーには双子の目玉焼きを手づくりしてもらおう。私はバーボンをカッコ良くのどに放り込みながら「君の目玉にカンパイ(乾杯or完敗)!」などとキザなセリフ。当然、名画「カサブランカ」のボギーに変身しているのだが、こんな時に限ってバーボンにむせて霧爆弾をマッチーの全身に浴びせてしまうのだ。

せっかく、頭のいい女性をふんだんに抱えるのだから、日本棋院はいっそ、1階ロビーを「女流棋士のグルメスポット」にしたらどうか。各女流棋士が最も得意にしている料理を商品化して顔写真付きで名品コーナーを展開すれば東京の新名所になるどころか、棋院の財政再建にも一役買うかもしれない。

人気抜群の由香里姫には愛犬にちなんだ「ベル・カレー」。それとも最近エステでモチモチになったそうだから、真っ白な「由香里モチ」が大ヒットするかも。モチはモチでも青葉で巻いた「桜餅」は中部のかおり嬢。女流本因坊に挑戦するイノリンはお客様の期待に応えてそのまんま「祷寿司」。陶芸を趣味とされるモコ元女流名人は粘土コネコネ力で練り上げた「手打ちうどん」。シンカイ元女流最強位は深海エキスがたっぷりの「ふかひれスープ」。シマコ第1期女流名人は「会津の銘酒・弟思い」。関西の美加姐は「ピリ辛ギョーザ」。コニシ八段は「女盛り・噛めば噛むほど味スルメ」。結婚されたGANMO元女流本因坊には当たり前は似合わないから「ガンモドキの煮付け」ではなく、ご自身が大好物の「大盛り焼きうどん」を客に振る舞っていただく。

棋士と結婚している女流の料理は、ご主人の手合い成績に応じて値段を決める。いつも高値なのは、イズミちゃんの「ウックン・スペシャル定食」。客を待たせないスピード調理と急所に利いたピリ辛風味が絶妙。ライバルのアオキ八段は「薬膳そば・二日酔いにキクヨ」。原サッチ—はヨダレが出そうな「ここに幸あり・味噌おでん」。中部のシゲコさんは隠し味が一杯の「ナオキ・ボルシチ」。オカダ・コヤマの中堅棋士はそれぞれ「オムレツ・パパ好み」「ダディーの愛したハンバーグ」。沖縄出身のチネリンは風呂上り専用・極上泡盛「酔い加減」。ヒデコ・ナオミ両三段はそれぞれ、「小松菜のおひたし」と「酔いどれ義父に仕込まれた温泉饅頭」。新参ヤッシーはもちろん「オクラ・納豆・メカブぶっかけご飯」。若き夫君のヒデオさんは成績が落ちるたびに背中をどやされそうだ。

売上ランキングをかき回しそうなのが、進境著しい若手女流群。圧倒的な破壊力が魅力のシェー・イーミンは「女殺し屋ハードボイルド・エッグ」。オクダアヤちゃんは「必ず最後にアヤはカツ丼」。私には宇宙人に見えてしまう歩ちゃんは「UFO焼きそば」。ムカイ三姉妹にはひところの自民党派閥みたいな「鉄の団結・箱入り娘弁当」。発想力豊かな次姉のコズエさんが気まぐれなアイディアを出し、力戦系の末娘のチアキちゃんがそれを形に表し、最も行儀の良い長姉のカオリさんが香りを添える、といった具合に三人の個性を発揮させた三色弁当。市ヶ谷・四ツ谷界隈のサラリーマンに引っ張りだこのランチになりそう。

通が好むロングセラーになりそうなのが、年季の入ったベテラン女流棋士によるおふくろの味。「夫婦円満・スギウチ味噌汁」、自然の香りがいっぱいの「クスノキ・スープ」、「幸子の幸は竹の子ご飯」、そしてマラソンが大好きなハツエおばちゃまの手になる「浅漬けQちゃん」などが代表メニューだ。

食欲の秋たけなわとは言え、これだけ並べ立てるとさすがにおなかいっぱい。メタボリック症候群が心配になるところだが、そんな時の救いの女神がおられた。関西総本部のツクンコ新妻(この9月1日に3015gの女の子が誕生=彼女はなぜか数字にシビア)に専属の栄養士になっていただこう。何しろ彼女の関西弁は聞くだけ、読むだけで何だか癒される。なんでやろ、いやほんま、不思議やわ〜。ご自身の体験に基づいてカロリーを調整する精妙なダイエット計画(このあたりの事情は関西総本部の仲間、キミオさんの痛快な体験談でどうぞ)に従えば、乱れた日常を送る変人諸兄も必ずや正しい食生活を実践できるでせう。

亜Q

(2006.9.24)


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