発車メロディー大賞

我が敬愛するアドさんが突然姿を消した(10月)13日の金曜日。以来つまらんことを面白がって書き散らす自分に嫌気がさしてもいたのだが、どうやらお元気を取り戻して回復途上にあるらしい。心の底から嬉しい。お顔を見たことも話したこともなく、それでもネットの上でおそらく10年越しのお付き合い。いろいろなサイトで名前は違っていても「アドさん」であることはすぐにわかったし、アドさん固有の温かい波長をいつも受け止めることができた。それにしても恋女房殿と碁を愛し、テニスに興じ、夜遊びの合間に仕事やお孫さんとの交流も深め、陸奥の寅さんみたいに丈夫で長持ちされそうなアドさんが、2週間もの間、意識がなかったとは恐ろしい。早く全快されて、これまでのように「おおなかこなか」の続きを毎晩読ませて欲しい。

そこで思い出したのが、もう一ヶ月以上も前に英国デイリー・テレグラフ紙東京支局長のコリン・ジョイス氏が『NEWSWEEK誌日本語版』10月4日号に書いていた「発表します、僕の選んだ発車メロディー大賞」だ。

記事は「Tokyo Eve」と名付けたコラム。コリン記者は「賞というものは概していい加減なものだ」と書き出し、独断と偏見で「東京の駅大賞」を選んだ。ただし、審査員(コリン記者1人)が行ったことがない駅は入っていない。この駅大賞の栄えある第1回のテーマが「発車メロディー大賞」なのだ。(以下引用)

まず4位は、高田馬場駅でかかる「鉄腕アトム」のテーマ曲。忙しい1日を終えた乗客の心に、子供の頃の楽しい思い出をよみがえらせてくれる。曲と駅の関連はよくわからないが、笑い話と同じで「理屈なしでわかる」魅力が何より重要だ。3位は大井町駅のビバルディの「四季」。季節にこだわる日本人にはぴったりだ。どんよりした都会の1日を過ごす人々も、この駅で一瞬、緑豊かなイタリアの田園に想いをはせる。

2位は東京駅の京葉線ホーム。大都市の玄関にふさわしい勇壮な音色が響く。優れた楽曲というわけではないが、地底の空洞のような空間で聴くと大聖堂にいるような気分だ。ただし、他の在来線ホームから500m近く離れているのでわざわざ聴きに行くほどではない(曲名を書いていないのは記者も知らないかららしい=亜Q註)。

そして堂々の第1位は、場所と音楽を見事に一致させた恵比寿駅。エビスビールのCMにも使われている発車メロディーは、映画『第三の男』のテーマ曲。この曲は悲しみや危険を連想させると言われ、米国映画評論家のマニー・ファーバーは「針の豪雨のように人間の意識を突き刺す」と評した。エビスビールを飲み過ぎた日の翌朝にはうってつけだ。

「最悪で賞」は上野駅に贈りたい。あの甲高い電子音があちこちのホームで響き渡ると頭が変になりそうだ。そうでなくても、東京の乗客は精神的に十分追い詰められているのに。「もっと工夫しま賞」は、池袋〜上野間の山手線の駅。どの駅でも流れる4秒間の強烈な音は芸術性も個性もない。JRの皆さん、何とかこの区間を快適に過ごせるようにして欲しい。「よくやったで賞」には赤羽駅が輝いた。駅を改装したために「ムーンリバー」を聴かずに済むようになった。あの感傷的な曲は工場が立ち並ぶ荒川沿いのBGMにはふさわしくない。代わりに使われるようになった「アマリリス」は6秒しか流れないが効果は上々。複数のホームでかかると、絶唱のように心地よく響く。

「がっかりで賞」は渋谷駅。以前はオリエンタル調のメロディーだったが、数年前に山手線の標準メロディーに変わった。かつては「ワオ、日本に来たんだ」と感激した外国人観光客も、今では「この駅は混んでいるなぁ」と思うだけだ。(以下、五反田、池袋埼京線上りホーム、新宿駅の成田エクスプレスのホームなどをほめているが、長くなったので割愛して引用を終わります)。

外国人の東京特派記者にもノーテンキな方がおられるものだ。気分を良くして棋士にもテーマ曲を見繕ってみたらどうだろう。棋聖挑戦を決めた覚さんはもちろん「モーツァルト」、オーメン元本因坊は「見果てぬ夢」または「フライミートゥーザムーン」と以前に書いたが、その他の棋士について順不同で我がイメージを書きなぐってみよう(敬称略)。

惜しくも名人位を失ったウックン王座・碁聖は「交響詩モルダウ」または「ピンクパンサー」、名人・本因坊に就いたタカオは「ステンカラージン」または「ボルガの舟歌」、ケーゴ棋聖は歌劇「アイーダ」か「タンホイザー序曲」または「ゴジラ」。棋聖位を失冠してから「塞翁が馬」と揮毫するようになったと言われるナオキは同じメロディーが果てしなく繰り返す「ボレロ」、久しくタイトルから遠ざかっている依田元名人・碁聖は「ライオンは寝ている」、立誠は「魔弾の射手」または「Shall we dance(「王様と私」の主題歌)」、キミオは「鉄腕アトム」または「星のフラメンコ」、チクン大棋士は「ジェラシー」または「未完成交響曲」、ライバル・コーイチは「四季」または「ウイリアムテル序曲」、臨天元は「管弦楽組曲」、タケミヤ大風呂敷先生は「天然の美」、シューコーは「酒と薔薇の日々」、松本新人王は「新世界」または「アンチェインマイハート」、ユーキサトシは「タイムゴーズバイ」または「天国と地獄」、スジュンは「マイファニーバレンタイン」または「ペールギュント」。

女流ではトモコ姉は「お暇なら来てよね」、青葉かおり嬢は「青葉嬢恋歌」、シェー・イーミンは「皆殺しの歌(映画「アラモ」の主題歌)」、ガンモは「モナリザ」または「ミスティー」、ヤッシーは「どうにも止まらない」、カナ女流棋聖は「天城越え」または「悲しみよ今日は」・・・・もうダメ、いつの間にか「棋士の愛唱歌」とこんぐらがってきた。つくづく、才能の枯渇を感じる今日この頃〜。

仕方がない。この際、囲碁サイトのテーマ曲に話題を変えよう。と言ってもいくつもないが。まず、いくつになってもスキーだ、やれクルマだ、やれ教育問題だとかまびすしく頑張っておられるqin太師のサイトはもちろん、「qin太の大冒険」、hidew論客が奏でるのは「ツァラストラはかく語りき」、本サイトはかささぎさんががなりたてる「勝手にしやがれ」またはなかなか終わらない「勝手にシンドバッド」。そして最後はアドさんの「おおなかこなか」。「しばしもやまずに槌打つ響き」が聞こえていたから「森の鍛冶屋」または「陽気な鍛冶屋」、それとも毎朝コトコトコットンと聞こえてくる「森の水車」、恋女房殿といつも仲が良いから「与作」もぴったりだ。早くよくなれ〜!

亜Q

(2006.11.6)


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