盤側の風雪

江崎誠致   立風書房   1975

 著者江崎誠致は碁のアマ高段者である。小説を書く傍ら囲碁のこともいろいろと書いている。
 プロ棋士と関わりをもつようになって十五年。その間に書いた随筆などをこの一冊の本にまとめた。
 それ以降に書かれたものはいろいろと読んでいるが、この初期の記録は初めて読んだ。もちろん後で書かれたものと重複するところもあるし、内容も古いので、この方面によほど興味がない限り、あまり面白いとはいえないかも知れない。
 逆に言えば、わたしは碁が好きで、碁について書かれたものに興味があり、江崎誠致という作家の碁に関連する小説が好きで、当時のことをある程度知っているので、図書館で見つけて借り出したのだ。

I 本因坊戦こぼれ話 などの随筆
II 木谷道場の人々
III 本因坊戦の観戦記 全十五局
IV 小説本因坊秀格 などの短編三篇

「III 本因坊戦の観戦記」は字が小さくて読めない。単なる記録と見るか。
「IV 小説本因坊秀格 などの短編三篇」は前に小説で読んだので、今回はパス。

 着物姿の著者が坂田栄男と間違えられた話とか、文壇碁の話とか、川端康成の話とかがある。林海峰の扇子の話はあきれた。扇子を持つのはかまわないが、それで相手の思考を妨害するような大きな音を立てる。石田芳夫か対抗してもっと大きな音を立てるので、扇子合戦で林海峰が負けたとか。断っておくが、林海峰は人柄の良さをだれもが認めるほどの人である。
 山田覆面子の話を紹介しよう。観戦記者だが、アマでは強者である。それでも四強などと言われた人にははるかに及ばない。ところが、プロ棋士たちがある手を評して「山田さんみたいな手」という。碁の世界で、誰々のような手といわれるのは、一流棋士の証明みたいなもの。アマでは四強でも言われない。それなのに山田覆面子は言われる。そういう独特な棋風を身につけているという。

「木谷道場の人々」では、木谷道場が二百段を突破し、次々と秀英が生まれたころの若々しい群像を伝える。間もなく日本の囲碁界が木谷道場に席巻されるその前夜の様子である。

 木谷禮子さんの話は特筆に値しよう。
 棋院で女流棋士を増やすため女性の入段を甘くしようと言う話があったとき、もっとも多くの女流棋士の出現を望んでいた木谷禮子さんが、条理をつくして甘くすることに反対したという。その後はいくぶん甘くはなったものの、現在まで基本的には男女同一条件で藝を競う基になった。

 時事ネタを後で読むような感じだが、それでも一度は読んでおきたいと思っていた本であった。

謫仙(たくせん)

(2009.1.6)


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