元気なローカルイベント「囲碁カーニバル」

ヨーヘーノート
ヨーヘーノート
 日本棋院と関西棋院が競って開催してきた保養地二泊三日の合宿型セミナーがどうも元気がない。関西総本部が長年続けてきた囲碁ゼミナールをこの8月で終了するなど、今年いっぱいで姿を消すセミナーが少なくないらしい。旅行会社主催の囲碁旅行はどこまでがんばってくれるだろうか。

 そんな中で奮闘しているのは、少数の棋士が主体的に運営する「プライベート型」と地域のボランティアが手作りで主催する「ローカル型」。「プライベート型」の代表的な存在はシャトルと弁護士・カサイ六段が手を携えて今世紀初めにスタートして昨年から年2回開催に広げた「ふれあい囲碁大会」や名門ホテルの取締役営業本部長みたいなシラエ八段ファミリーによる「2子強くなる囲碁セミナー」など。テンコレ文士の欧州ツアーは残念ながら終わってしまった。

 「ローカル型」で断然目を引くのは日本棋院長野県本部主催の「サマー囲碁カーニバル」。第22回目を迎えた今年は7月15日から21日までの6泊7日間、長野県志賀高原で行われ、外来入場者を含めて延べ180人ほどが参加した。内容はランク別大会、プロ棋士による指導碁、プロ同士とプロアマの公開対局、名局解説などきわめてオーソドックス。8人で構成する指導プロのまとめ役は吉岡薫七段。ご存知、『週刊碁』が三年ほど前に短期集中連載した研究会対抗戦でシャトル門下と覇を競った日本棋院中部本部の名師匠。加えて、中根直行&金賢貞(キム・ヒョンジョン)の新婚カップル、井口豊秀・下島陽平両七段、加藤祐輝五段、関西総本部の井澤秋乃三段、柳澤理志初段。率直に言ってトッププロとかスタープレーヤーと呼ぶには今一歩だが、人気はすっかり定着している。

 参加アマの平均年齢は60代だろうか。リピーター率はかなり高そう。ここ10年近く参加している私が見るところ、顧客満足度を高めている最大の要因は、日本棋院、関西棋院より安めの価格設定に加えてプロとアマの垣根を取り外した運営姿勢。東京の大淵九段と共に弟子の育成に心血を注ぐ“平成の木谷”こと吉岡七段が、田畑宏会長以下事務局、ホテルのスタッフと絶妙のハーモニーを奏でながら、アマへの温かい心配りを全員で励行しているのがひしひしと伝わってくる。3泊のうち2晩は飲み放題の歓送迎会というのも意地汚い私には好もしい。

 一例を挙げれば、プロ同士の公開対局・大盤解説会。解説は第18回中学生名人になったユーキと今年4月にプロ入りしたばかりのサトシ。聞き手は吉本興業でも大受けしそうな中根アンパンマン。天性のボケ役を演じながら時折鋭い質問を両解説者にぶつけて困らせるのが観客にはたまらない。最年長の吉岡師匠は「学生アルバイト役」。役回りを弁えて黙々とひたすら石を並べる姿は感動もの。会場からひっきりなしにかかる突っ込みと相まって、これほど和気藹々とした解説会は珍しいのではないか。

 参加プロのキャラクターがまた素晴らしい。吉岡、中根、金3名は本欄過去記事を見ていただくとして、「棋界の氷川きよし」として売り出し中のヨーヘーが面白おかしい。同郷の大先輩シャトルの紹介で吉岡門下に入門し、毎年好成績を挙げて順調に昇段を果たしてきたこの彼が、何やら大切そうにノートを抱え込んでいる。見たいとなると私は手段を選ばない。ためらう彼に私は脅しすかして、ようやくノートから破りとって入手したのが、彼が敬愛する中根アンパンマンと妹弟子のヒョンジョンの新婚カップルのポートレート。ひょうきんだが味わい深いヨーヘー画伯の才能が感じられるではないか。

 井口七段は、千寿会の貴公子教授・セーケン(ケーゴ天元の義兄でもある)と同郷・同級生。無口で地味な存在だが、私の経験ではアマへの手直し解説は棋士中随一。三面打ち指導碁の最後に残った時には、深夜まで2時間以上にわたって丁寧な教示にあずかった。ユーキはかわいらしい少年顔がようやく薄れ始めた22歳。17歳の弟弟子サトシとともに中根アンパンマンの薫陶を受けてなかなかの“吉本センス”を覗かせる。強くなるのが先か、面白キャラクターで売り出すのが先か。結構マジメで意地っ張りだから前者かもしれないし、既にオバチャマ連の人気がすごいから後者かも?

 私が密かに楽しみにしているのは、ヒョンジョン・アキノの若手女流同士の“セレブ争奪戦”。どちらが先に、NHK杯またはBS囲碁ウイークリーの聞き手役になるか。この座を射止めれば、古くはチーママやO川T子カマトト姐、近くはT・アッコ、カナ、青葉嬢らと同様、一躍「全国区」の存在になる。その登竜門ともいうべき『週刊碁』で、既に二人とも署名コラムを連載し、好評を得ている。人柄についても、嘘偽り、おもねりなしに二人とも一発合格だ。

 両者の違いを具体的に比べてみよう。ヒョンジョンの強みは韓国出身・日本人棋士と結婚した日韓の架け橋的存在。連載中の「アンニョンハセヨ」でわかる通り、書き言葉・漢字も抜群のセンス。日本人でもわかりにくい自動車免許教則本で日本の運転免許を取るなど天賦の語才、かつ最近は日韓の文化比較などでも鋭い見解を見せ始めている。儒教精神で培われた日本人以上の“大和なでしこ”ぶりも絶賛に値する。

 一方、アキノの強みは何と言っても目の大きさ、声のかわいらしさ。バニー姿が最も似合う棋士だろう。それともう一つ、「順番」がある。例えばNHK杯の聞き手役は東京のカナ、次いで中部の青葉嬢とつながってきた。「今度は関西」と見るのはごく自然だろう。ただしライバルの存在も気になる。関西棋院のアマゾネスことT村C明嬢だ。

 カーニバルの趣旨を反映してか、参加客層もフレンドリーだ。まずは強豪連の人懐っこさ。中でも、千寿会とは師匠を同じくするホワイエ同好会(設備、サービスで日本一と言われる東京・国分寺の碁席、http://www4.ocn.ne.jp/~foyer/)のO川(今大会で無差別級で優勝)、M崎両氏(いずれもアマ七段格)は「人非人」「サディスト」といった私が悔し紛れに連発した厳しい悪口雑言にもめげずニコニコと手直しをしてくれるし、有段者かどうかビミョーなオバチャマ方は娘時代の「うれし恥ずかし経験」やその時の心理状態を何でも教えてくれる貴重な人生の師になってくれる。そして私より若いすべての青年諸君は私を敬愛しているやうに見えなくもない。

 好評に支えられて、カーニバルは早くも来年のスケジュールを決めたそうだ。日程と会場は今年と同じ7月15日から21日までの1週間、長野県志賀高原のハイランドホテル。前半と後半で分割実施するが、もちろんフル参加もできる。参加料は3泊4日で5万3千円から(部屋タイプにより多少違う)。フルコース参加や女性には割引もある。私も参加するつもりだが、皆様もいかがでしょう。

亜Q

(2005.7.24)


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