天才ハッカーからソニーに愛を込めて

 若人に「愛のゆるみシチョウ」を説く伝道師・亀梨先生は、「“好き”の反対は“嫌い”ではなく“無関心”」と喝破されていた。そう言えば、かささぎさんは大阪での悪ガキ時代、特定の女の子にしきりにちょっかい(いたずら+意地悪)を出していつも泣かせていたというウワサだ。きっとかささぎさんはその女の子に片想いして、何とか自分に関心を持ってもらいたくて躍起になっておられたのだろう。

 こんなことを思い出したのは、世界のソニーを敵に回して1億人を超す個人情報流出の因をつくったとされる天才ハッカーが、交流サイト(SNS)で瞬く間に世界大手にのし上がった米フェイスブックに入社したとの報道を目にしたからだ。この天才はジョージ・ホッツ氏(21歳)。10代で米アップルの「スマートフォン」のソフトを改変する技術を開発、今年初めにはソニーの「プレイステーション3」に対応する技術を公開した。ソニーは「海賊版ソフトの利用拡大につながる」としてホッツ氏を提訴、3月に和解したと言われるが、この一件が同社へのハッカー攻撃の一因となったとの見方が根強い。

 日本ではハッカーを「情報システムに対する違法アクセス者」として忌み嫌うが、米国では「高度な技術を持ち、既存の枠組みにとらわれずに技術を追求する異能エンジニア」と見なす意味合いが強いという。「米国の大手企業がハッカーを積極的に活用するのは、こうした風土があるからだろう」と記者はシリコンバレーから伝えている。もしかすると、ホッツ氏は幼き日のかささぎさん同様、ソニーに愛を込めて技術公開したのかもしれない。ソニーが彼を訴える代わりに雇用すれば、ソニーの業績と株価は急上昇したのではないか。

 この動きに呼応するように、物理学者の佐藤文隆氏(甲南大学教授)は「日本では、西洋で出来上がった社会制度を明治時代に移入して、科学技術の専門家が登場した。このため彼らには芸術家のような自由なイメージがなく、当初から“お上の科学者”たる組織人だった」と説く。科学という制度は、日本では国家権威の下に形成されたが、西洋では既成権威に挑戦する新参者としての経験を経て確立したということらしい。

 佐藤氏はさらにボルテージを高め、「この抗争期に“マッド・サイエンティスト”が登場した」と力説する。異常能力は持つが社会と人倫に無頓着な超人・変人。世間には目もくれずに自ら価値を置く対象に没頭することを理想とする。毒ガスを作ったハーバー、原爆のオッペンハイマー、戦争理論のフォン・ノイマンらに加えて、マッド・サイエンティストの典型例としたのが磁気の基本単位に名を残すクロアチア生まれのニコラ・テスラだ。交流送電、ナイアガラの水力発電、テスラコイルなど広い分野で普及の業績を挙げた。

 翻って、未踏の芸術家、文豪、大数学者、そして囲碁・将棋の名棋士にもマッド・サイエンティスト(奇士とでも呼ぼうか)の血が流れるのではないか。現代の棋士から探れば、呉清源、依田紀基、結城聡、韓国のイ・セドルらが候補に上がると思うが、惜しむらくは年齢や業績と共に角が取れていってしまうようだ。むしろマッド・サイエンティストでは歴史がある欧米から新スターが生まれそうな気がする。なにせ、マイクロソフト、アップル、グーグル、フェイスブックなどの創業者が瞬く間に億万長者になる風土がある。新スター登場と共に、碁は中国、韓国、日本といった国境を超え、燎原の火が燃え盛るように世界に浸透していくだろう。

亜Q

(2011.7.3)


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