謫仙楼対局 碁は半目勝てばいい!

黒 謫仙 六目半コミだし
白 聖姑
 これは酷暑の八月の対局であった。

 いま聖姑(せいこ)が白▲と打ったところ。流れでとりあえず打ったが、黒がAかBと打てば投了するつもりでいたらしい。わたしもそう打つつもりでいた。
 Aだけならなにも考えず打つのに、Bでもいいので、どちらがいいか確認するために一拍おく。そのため、那智黒を摘んで打ち下ろす間に、心境の変化があった。どちらでも同じだといっても、わざわざ損する手は打たない。AかBと考えてしまうと、もっといい手はないかと考えてしまったのだ。碁笥に手を入れてから打ち下ろすまでの間の出来心。
 結果、あまりにバカバカしい負け方をしたので、ここに発表するのも嫌になるほど。対局以来顔を見るたびに、「あれは載せないの」と催促される。
「棋譜を覚えていなくて」
 わたしは棋譜を覚えられないのだ。
「だってデジカメに撮ったでしょ」
「載せないつもりなので消してしまったンだ」
「大丈夫よ。お龍ちゃんがケータイで撮っておいたから」
 そう言って、勝手にわたしのパソコンに画像データを移す。
「載せてくれないと、お土産持ってくる気、なくなりそう」
 脅迫まで加えた。
「10月26日は小東邪(しょうとうじゃ)の誕生日なので、それまでに載せて」
 なんなんだ、関係ないと思うぞ。
 左下隅の黒を捨てても五十目は勝てそうなのに、黒1と打って八十目も勝とうとしたのが次の図。

 白4と打たれても、まだ事実上本劫になっているのに気が付かなかった。白6のときも黒Aに抜いてしまえばオワだ。それなのに黒Bと受けてしまった。白Cと劫を取られる。
 黒のコウダテに手を抜かれ白4の二路下に一目抜かれ、もう下の劫は無関係、白4のところが天下きかずの大劫だ。ここまできてようやく気が付いたが後の祭り。結局下辺右の白七目を取り、黒の本体は取られてしまった。

 さて、左下はどうなるか。隅の基本形の片方の一線に黒石がある。どうも黒4と打って劫になりそう。
 しかし、黒1で活きと読んだ。ところが、白4となってこの隅も死んでしまい、盤面勝負になってしまった。コミが出ない。
 聖姑曰く「オワはリがないから終わりじゃないの。碁はね、半目勝てばいい!」
 ごもっとも。

謫仙(たくせん)

(2008.10.21)


もどる