さらば、「ハッピーマンデー」(下)

ハッピーマンデー最後の3月23日は、高梨聖健八段と孔令文六段の両講師がそれぞれ白と黒のチームのキャプテンを務め、千寿会からの飛び入りも含めて1チーム12,3人ずつに分かれて1手1手バトンタッチする大盤連碁大会。

互いに手堅く布石を進める中で着実にポイントを挙げた黒が中央に勢力を蓄えて打ちやすそうな局面。白のジリ貧が予想される中で突如キャプテンの貴公子の指導が1オクターブ高まった。「この局面でこれこれと考えるならA、しかじかと見るならB、しかし全局をみて石の方向を決めるなら“シーッ!”しかあり得ません」と、Cの着点に白石を押さえ付けている。いかにも三択形式のヒントに見せかけて、これでは“強要”ではないか。去年の晩秋、ウックンとの阿含桐山杯決勝で惜敗し、この早春には棋聖リーグ入りを賭けた枠抜け戦で宮沢吾郎九段に大逆転負け、何やら元気がなさそうにみえた貴公子も連碁の戦いに巻き込まれ、いつしかテンションが上がったらしい。

今度は黒が間違える番。白を攻め立てるはずが、重大な手抜かりから逆にぼろぼろにされそうな雰囲気。こうなるとレーブン・キャプテンが黙っていない。黒の着手が変な所へ行きそうになると「ちょ、ちょっと待って!ここはこう打ちたくなりません?」と質問形式を装って自分の打ちたい着点を“強要”する。

連碁をスタートする時には確か「勝敗にこだわらず楽しく打ちましょうね〜」と両先生はおっしゃったはず。でも今や、「貴公子vsレーブン」の大バトル。これは面白くなった。ザル碁アマ同士で連碁を打たせると、プロの先生はともすれば行儀よく当たり障りのない講評で済まし、わずか数手の好手を抜き出して褒め称えるパターンが多いような気がするが、いつの間にかアマの土俵に降り立ってゲームにのめり込むプロ棋士の姿勢はアマが最も喜ぶ「仲間意識」の発露だ。

このあたりをM女は、「『ここはこの一手しかない』というところと『いろいろある』ところと『いい手がみつからない』ところと・・・プロの先生方の間でも意見の違うところもあって、そういうところが囲碁のおもしろいところなのだなぁと思いました」と後で話しておられた。ちょっとカマトトっぽい気もするが、それはともかく。

ハッピーマンデーの卒業式のこの日、びっくりするような素晴らしい着想も見られた。特に我が碁友のミエ女(M女とは別人です)が黒模様の中でひらりと舞い上がった大ゲイマには大感動。もちろん両講師もほめていました。年々歳々花は同じように咲くが、歳々年々人は進歩していくものなのだ!数年前私も貴公子から「カンドーした」と言われてメチャうれしかった記憶があるが、もしかするとこれは「勘当」違いだったかもしれない。

盛り上がった連碁の余韻も冷めやらぬまま、両講師と有志20人ほどが打ち上げ飲み会に繰り出した。教室に6年3ヵ月間通い、いつしか最古参になったM女が答辞替わりに幹事役を自ら務められた。この席でM女がレーブン先生からいただいた最後のありがた〜いアドバイスをご紹介しよう。その前に若干ご説明させていただく必要がある。

ハッピーマンデー卒業の時点で同教室の両横綱を挙げれば、私の見るところ東にコモリン、西にM女。この二人が最後の雌雄を決すべく相まみえた。結果はその他の生徒さんと戦って8連勝中だったコモリンがボコボコにされ、M女がめでた5連勝を達成。「ハッピーマンデーで一番負けたくない相手に勝てたのでとても気分よく最終日を迎えられた(≧▽≦)ノ」とM女が大ハシャギされているところへレーブン先生が現われた。

最後のアドバイスはまずコモリンから。「あなたはM女と打つ前から心が挫けてしまっている」。次いでM女には「あのね、僕はなぜいつもコモリンの肩を持つかわかりますか?」と問いかける。プロの先生に限らず、誰でも女性または弱い方を応援するのは当たり前。なのに先生はその正反対の挙動をとるのだ。「ン?」と見上げるM女にレーブン先生が説明した答がこれ。

「こもりんと打つときの顔がこわすぎるからもっと優しく打ってあげてください」——。いつもさわやかな笑顔を絶やさないM女はこの夜、「なんで最後の言葉がそれなんだ。。。。(ーー;)」と、少々悪酔いされたようでした。

亜Q

(2009.4.2)


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