ヒカルの碁(全23巻)

ほったゆみ   絵 小畑健   集英社

ヒカルの碁が再放送になる。わたしはテレビは見たことがないのだが、当然ながら原作劇画は見ている。今更紹介するのもおかしいほど知れ渡っているが、ここに載せないのも手落ち。プロ棋士の梅沢由香里が監修しており、囲碁にまつわる諸々を正確に書いている。インチキ碁盤や碁石の話など、囲碁ファン(プレイヤー)には特に知っていてもらいたい話だ。騙されないために。

前半の準主人公である藤原佐為(ふじわらのさい)は、ヒカルにだけ見える幽霊であるが、読んでいるときは、幽体であることを忘れるほど現実感がある。佐為のきりりとした真面目な顔と、漫画チックなとぼけた顔の、二種類の顔の使い分けが秀逸。週刊誌に発表していたが、わたしは単行本を読んだ。念のため。佐為は男です。そうそう塔谷アキラも(^_^)。衣装から判るように藤原佐為は平安時代の幽体。

今では、韓国語をはじめ中国語・英語・ドイツ語・フランス語などで出版され、世界中で読まれている漫画である。麻生首相の言うように劇画は日本の顔になっている。ヒカルの碁はその代表ではないか。この本は囲碁普及にも強力で、日本ばかりではなく、欧米の多くの少年を碁に誘った。数年でアマ高段になる人もいる。これにはインターネットの発達が補助している。碁を知っても相手がいない。そこでインターネット棋院で対局して腕を磨く。囲碁人口数百人の国からプロを目指して日本くる少年がいる(オンドラ君など)。

後半ではヒカルのたくましい成長と、韓国や中国の躍進ぶりが書かれていて、迫力がある。「囲碁界の真相」に書いてあったが、プロを目指す少年の数が、韓国では20万もいて、そのトップはプロでも高段の域にある。それが日本の院生は100人にも満たない。制度の違いもあるが、もはやおどろくこともできないほどの差がある。そんな様子をはっきり示してくれた劇画であった。

主人公は「ヒカル」、ヒロインは「あかり」、ライバルが「アキラ」。男でカタカナ名は珍しい。

残念ながら次に位置する囲碁漫画がない。日本棋院では漫画の原作を懸賞募集した。第一回目は優れたものが無く、空振りとなったらしい。二回目の締め切りは今年の1月。結果を知らない。どうなったのだろう。第一回に優れたものがなくでも、その中の一番に賞金をはずむべきだったと思う。「隗より始めよ」というではないか。愚作でも隗として賞を出せば、次回からは、「あれで賞をもらえるなら、わたしでも貰えるぞ」ともっといいアイディアが出てくるであろう。そして応募が多くなれば、その中から使える優れたものも出てくるはず(必ずとはいえないが)。とにかく最初から、「ヒカルの碁」なみを期待しては無理だろう。たとえば新井素子さんの「サルスベリがとまらない」などどうだろう。あるいは江崎誠致の小説とか。

ちょっとした不自然を。碁石を持って打つ場面だが、肘を横に上げて、肩・肘・手首が水平になっている。実際にはそのような打ち方はしない。絵を書いている小畑健さんが碁を知らなかったことを表している(かな)。

謫仙(たくせん)

(2009.4.20)


もどる