Davidと覗いた「第60期本因坊就位式」風景 その3

本サイト「掲示板」No.846 に、たくせんさんからさっそくこんな書き込みをいただいた。
<「黒1、17の四」という安倍ちゃんの声に「わかったア」。最初の一手で高木が当てたというあの話、ハイライトに持ってきたかったな(^_^)>

その通り、「深夜の怪笑」には、痛快な「オチ」が仕掛けられていた。私が前回ご紹介したのは「深夜の対局場」とサブタイトルがついた前半部分。後半の「恐怖の大予言」に記されている「オチ」を省いては著者のテンコレ文士に失礼にあたるだろう。予定を変更して、柳九段の前に珠玉のようなさわりを紹介させていただく(一部本文と異なります)。

上の句の 一字で札は そこになし

例によって、書き出しから凝っている。「む」「す」「め」「ふ」「さ」「ほ」「せ」から始まる句はたった1首しかないことから、1字を詠んだだけで札が取られてしまう百人一首競技を詠んだ川柳を伏線に、「いつ果てるともなく続いた深夜の研究会は思わぬ“事件”からあっけない結末を告げた」と予告して、たくせんさんが寄せられた上記文章につなぐ。

もちろん、アベチャン先生は抗議する。「冗談じゃない。まだ黒1だよ。わかるわけないじゃないか」。高木初段が笑いをこらえながら答える。「いや、ひらめいたんだよ。アベチャンが並べようとしているのは、秀和・算知局、算知先番5目勝ちの碁だろう」。驚きのあまり、アベチャンはしばらく声が出ない。高木初段の答えは奇跡的に的中していた。

「どうして……」と問うアベチャンに、福井初段がクスクス笑いながら高木初段に代わって種明かし。「馬鹿正直に並べようとするから、バレるんだよ」。高木初段が追い討ちをかける。「さっきの碁の次の頁はこの碁だからね」。

そしてテンコレ文士は総括する。「安倍吉輝八段(本著初版を発刊した1977年時点)は、人も知る生まじめな性格の持主である。最初のうちこそ、現代の碁を並べたり、昔の碁を並べたりしていたが、本性はかくせない。いくぶん眠くもなったせいか、いつしか並べる棋譜が単調になり、一つの棋書を規則的に並べ始めていたのである。高木も福井もとうに気がついていて、才子高木は安倍の性格を察知し、次はこの碁だろうと、何食わぬ顔で先制攻撃に出たのである」。

そしてその後、表題の「深夜の怪笑」が暗闇の部屋の中で続いた――。

なお、この名著は2年前に日本棋院で開かれた「中山典之六段出版記念会」で配布された。岩波現代文庫版の「完本」が購入できる(900円)から、本サイトを三回以上訪れていただいた方(つまり碁界や棋士に愛着を持つ方)でもしお持ちでなければ、是非お薦めしたい。

亜Q

(2005.8.13)


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