囲碁の文化誌

水口藤雄  日本棋院  2001

今から見ると少し古い本かもしれないが、囲碁の文化歴史についての恰好の入門書だ。 起源伝説からヒカルの碁まで、碁に関して、広く浅く、判りやすく解説している。碁の起源は中国であろうといわれているが、確定しているわけではない。伝説によれば、堯帝が息子に教えたというが、文字のない時代で記録も物証もない。考古的にはなんとか殷代まで遡れる。しかし、それが今のような碁かどうか。十七路説が強く、占い説もある。古代インド起源説も有力。ただ記録がないため、決定できない。

わたし(謫仙)は前に笑傲江湖の碁で忘憂清楽集の話を書いたが、これは北宋の徽宗の時代に書かれたもので、もちろん棋譜は創作。敦煌で碁経が見つかったが、六世紀のもので、一応これが最古の棋書といえそう。棋譜は伝わっていない。それから8年、現在ではどうだろうか。

日本のことでは、源氏物語の碁の話。織田信長が碁を打った記録はなく、本能寺で碁会を開いてはいない。名人碁所の成り立ち。など。通説とはかなり違う。

そんな話がいろいろとある。著者は六十冊ほどの参考文献を載せている。それどころか、著者を知っている人の話では、山のような資料が眠っていて、このままでは四散しそうという。

四百年にもわたって日本で育ち磨き抜かれた碁が、わずか二十年で韓国に抜かれてしまった。なんとか伝統と文化を維持して欲しいという。著者の願いだ。著者は爛柯堂棋話などの有名な文献も鵜呑みにせず、原典に当たり、当否の判断を下し、判らないものは判らないと書いていることに好感を持てる。

わたしは著者の、神髄は調和にあり −呉清源 碁の宇宙−で呉清源の「莫愁」の引用の間違いを指摘したことがある。これだけ調べて書く人に、なぜあのような間違いがあったのか不思議だ。弘法も筆の誤りか。

謫仙(たくせん)

(2009.4.15)


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