囲碁心理の謎を解く

林道義   文藝春秋   03.2

 武宮正樹・小林光一・趙治勲などを心理学的に分析。紫式部と清少納言の棋力判断。江戸川柳の紹介など。一度は読んでおきたい話。
 天才型の棋士がポカをするのはなぜか。兄と弟で棋風が違うのはなぜか。「ヒカルの碁」で佐為が突然消えてしまう理由。など、心理学の専門家による分析である。

 はじめに碁の効用として、「頭が良くなる」という。わたしたちも疑問符付きでそう言っているが、この本でははっきりとそう言っている。碁を打つと「頭全体を使う」。
 こどもたちが碁を知ってその面白さにとりつかれる。いままでこどもたちが碁をやらないのを、他にもいろいろなゲームがあるからと言っていたが、それはいいわけに過ぎない。面白さを教えてこなかったことにある。それがヒカルの碁を知り、ゲームより面白いと夢中になる。
 人の脳は、昼間起きて何かをしているときは、集中を促すためのβ波がリラックスを促すα波の三倍出ている。
テレビゲームをしているときは、β波がα波なみに低下する。つまりテレビゲームは機械的な集中であり、いろいろな能力を組み合わせるための集中ではない。
 しかも、テレビゲームばかりしていると、ゲームをやめたときも、β波がα波なみに低下したままだ。この脳の状態は痴呆症患者と同じ状態だという。

 こんな話から始まって、実際の棋士心理の謎を解く。
 天才型の棋士のポカは、心理学的な必然性に導かれている。
 棋士のひらめきは非日常的な要素が大きく、それは布石の段階に大きく現れる。ヨセは日常的な要素が大きい。このため非日常的な要素でフル活動していた脳が、日常的な要素で充分に働かなくなってしまう。注意力が落ちるのだ。
 ある棋士は、稼ぐだけ稼いで、そのまま終わりにすれば勝てるのに、なお相手の中に踏み込んでいって、勝ちを落としている。子供のころの両親とのふれあいが少なかったのが原因ではないかと。
 兄弟では、下の方がひらめきの多い棋士になり、上は堅実型になる。これなども育てられかたの影響が大きい。

 俗説では、「名人」は織田信長起源説が強いが、室町時代にすでに名人の名はあった。
 1199年に「囲碁式」という本があった。何度も写されているうちに、書き間違いや、その時代の言葉に変えられたりしている。この本を研究したという。言葉の変化から時代考証を行い、九分九厘鎌倉時代初期と結論している。わたしは「囲碁式」は初耳なので、これについてはなんとも言えない。ここでは興味のある人はどうぞ、と言うしかない。
 その地、はじめに書いたような内容がならんでいる。かなり密度が濃い。

 煙草にも言及していた。脳の情報伝達の仕組みを説明し、スモーカーはこの仕組みが壊れていて、煙草を吸ったときだけ一時的に復活して普通の状態になる。本人は冴えると思っているが、一時的に普通の状態になるだけ。
 これはしばらく煙草を吸わないでいると、普通の脳に戻る。

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 わたしのインターネット碁のときの脳は、どうもゲーム脳になっているようだ。アタリを見逃したり、簡単な死活を読み間違えたりする。それどころか形だけ見て考えないで打っているらしいことに気が付いた。先日14連敗し、さらに負けて、4子落ちた。ところがそれでもなかなか勝てないのだ。
 それでいながら他のことをしながら、石音を聞いてパソコンの前に行き、形を見て1秒で打っていると、全然考えていないのに勝ってしまう。ゲーム脳だなあ(^。^)。

謫仙(たくせん)

(2010.12.8)


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