貴公子かく語りき「星目で来い!」〜アマを負かしにかかるプロはどこまで強いか

 千寿先生が欧州で発掘し、手塩にかけて日本棋院のプロ棋士に育てた故ハンス・ピーチ六段がまだ低段だった頃、日本棋院の肝煎りで級位者を対象にした「ハッピー・マンデー」教室を開講した。あの不慮の事故でハンスが亡くなった後も、“東の貴公子”と呼ばれる高梨聖健八段、両親は中国のトップ棋士、さらに小林覚九段を岳父とする孔令文六段らに受け継がれて有段者や強い級位者を多数輩出してきたようだ。

 そんなご縁で、千寿会とハッピーマンデー在籍者との交流がもう5、6年ほど続いている。この24日も2月の誕生会(対象者は千寿会から私と29日生まれ(!)の弁護士たっちゃん、ハッピー・マンデーからトモミ、ミエ、マユの妙齢の美女3人)を兼ねて双方の有志が日本棋院で交流対局会を開いた。何よりのプレゼントは、たまたま仕事で日本棋院に来られていた聖健八段が飛び入りで誕生会に参加してくれたこと。棋院近くのイタリアンレストランで総勢15人が飲み放題のワインを飲みながら大いに盛り上がった。

 その席上でとんでもない企画が持ち上がった。長く続いた絶不調を最近ようやく脱したらしいかささぎさんが貴公子に打ち明けたのだろうか。京大時代に坂井秀至プロらと切磋琢磨して学生本因坊も獲得したアマ強豪に、人様には決して明かせないほど打ち込まれたあの苦い体験を(トップページ下方の「絶不調の人」をご覧ください)。そんなことがきっかけになってどちらが言い出したのか、「星目の置き碁で真剣勝負しよう」ということになったらしい。

 もちろん貴公子はプロだから賞金を賭ける(賭けなければむしろ失礼だろう)。と言っても大金では味が悪いし両者の生活に影響を与えてもいけない。ま、小遣い銭程度。事は千寿会での内輪の実技教育あるいは個人授業。いまや日本は成熟したオトナ社会だから、「賭け碁は悪」などと目くじらを立てる人はよもやあるまい。

 それにしても、かささぎさんはれっきとした高段者。箱根の「ふれあい囲碁大会」に五段登録で出場した時(その後は六段で出場)には見事優勝したこともある。さらに数年前には小林覚九段、コーイチ・チクン大棋士やウックン、ケーゴ、タカオ、ハネらの四天王ら現代のトップ棋士を相手に十番勝負を仕掛け、驚異の9連勝を飾るというノーテンキ(気宇壮大)な初夢を見た人でもある。いくらなんでも星目置けば、碁の神様にも引けを取らないのではあるまいか。

 ところが貴公子も勝負師。いくつかの条件を付けた。まず、時計を使用する。「1手5秒」は無理でも、持ち時間はかなり短めに設定されそう。そして棋譜公開は絶対ご法度。貴公子は常々「アマとの稽古碁においてもプロ同士と同様に本手を打ち、間違いを期待するウソ手は決して打たない」と公言し、実践されている。その貴公子が日頃の理念をかなぐり捨て、どんな手を使ってでもアマを負かしにかかる。もちろん立会人も無用の1対1の真剣勝負。貴公子は最近20年近い喫煙習慣をスパッと切り捨て、当面の目標をプロアマ混合戦「阿含桐山杯」に絞ったらしい。かささぎさんをそのための尊い生贄に仕立てようという目論見なのだろうか。

 これはおもろうなった。周囲の予想は意外にも貴公子に乗る声が多い(ホンマに友達甲斐のない面々や)。しかし愚直な私はかささぎさんに乗る。それがノーテンキ教祖かささぎさんに対する、一番弟子を認ずる私の務めなんや。でも万が一、かささぎさんが負けたらどないしよう。その時はもちろん、この私が弔い合戦に立つ。ただし私はかささぎさんより年長。持ち時間を10分ほど余分にもらいたい。首尾よくリベンジを果たした暁には、無念の最期を遂げたかささぎさんの骨を拾い集めお経を上げてお慰めまいらせ、賞金は当然奪い返して応援の紳士・美女を交えて美酒を飲むつもりなんや。

 何、この私も返り討ちに遭う?そないアホなことを抜かすのか、キミは。何でやねん!!ここを訪れる方はホンマにへそ曲がりの変人や。ワテは今夜もまた、深酒になりそうな予感。

亜Q

(2008.2.26)


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