木下強豪・吐血の譜(その2)

梅沢由香里五段

由香里姫はこの日、うっすら銀色がかぶったような白(マホガニーホワイトとでも言うのだろうか?)のお洒落なドレス。私の昔の大ボスが旭日ナントカ賞を受賞したパーティーでもお目にかかったが、その時はブルーのシックなコスチューム。姫は何を着ても似合います。一方の木下強豪はTシャツにジーパン、扇子も持たずまったくの普段着。理系研究者にはこの手の服装無頓着な御仁が少なくないが、これはこれでいかにも木下さんらしい。察するに、人気ナンバー1棋士を相手に雑誌にも掲載される一戦を平常心で迎えようとの心意気だったのではないか。

さてこれから、かささぎさんと私のザル碁コンビが木下強豪の感想などを手がかりに、恥を覚悟で観戦記もどきをご披露させていただきます。ザル碁のくせに女流トップとトップアマの手をああだこうだと評する怖さは百も承知のつもりですが、これを読まれる酔狂な強い方はどうぞアワレミいやアタタカイ目で「なるほど、こんな考え方をしているのか」とご笑覧いただき、私ども同様にザル碁の皆様ともどもご教示、ご意見をいただければ幸いです。

梅沢(先番)−木下戦(1−58)

冷房が効いた対局室で先番を当てた姫が上辺を向かい小目、白が下辺を2連星で対抗。黒が右下星の白に小ゲイマにかかると、白6は1、2分の寸考後、最も厳しい1間バサミ(17−十二)。まことに余計な事ながら、右上に黒がある時私はカカッた黒を挟まずに1間または小ゲイマに受けることにしている。黒から堂々と1間に飛び出されて挟んだ石(白6)を攻められてしまうのが怖いからだ。その意味で、星の白に両ガカリした黒7はサバキの手のはずだから私には意外だった。黒はなぜ白を割いていかないのだろう?このあたりはあまりにも初歩的過ぎるかもしれないから、小心の私は木下さんに聞くのをためらってしまった。

次の白8ツケは当然として、ほぼノータイムで打たれた黒9にもちょっとびっくり。黒11(16-十三)を先に打てば、白キリ(17-十三)から黒は右下隅の実利を、白は右辺の厚みを得る分かれになるのだろうか。実戦はその逆になった。「これも定石」と木下さんは言うが、ザル碁の私は初めてお目にかかった。そして次の黒15(16-十)が微妙な変化球(木下さん)。16-十二または17-十一なら本手らしいが、実戦は右上星の黒とのバランスを優先させたのだろうか。「この黒15を好手にさせない」——木下さんは堅く心に決めて次の着手を選んだ。これがまた、ザル碁コンビの意表をついた。

二人が一致したのは右上へのカカリ。黒の模様化をあらかじめ抑制し、局面を細分化して大ゴミの効果に期待する。実は私は恥ずかしながら白16-九とツケ、右辺黒を凝らせるのもやけにいい手に思えたのだが、他の着点候補が多数ある今、わざわざそんなことをするのは完全に味消しと言われてうなだれてしまった。

事実、木下さんはいろいろな味を含みとした“様子見気分”(何とまあ高級な感覚!)で左上に1間高ガカリした。姫は「それも想定範囲」とばかりすぐに黒17(7-三)と小ゲイマハサミ。木下さんはここでも白18(4-四)ブツカリという見慣れない定石を選ぶ。「当初は3-三とツケるつもりでしたが、黒ハネ出シ、白キリ以下、白が6-三に割り込んだ時、黒に6-二と下から受けられてシチョウが白に良くないことに気づいて予定を変更しました」。フーム、なるほど。

木下暢暁アマ

以下、白は32まで左辺黒にもたれてくつろぎを得た時、黒は上辺を33(10-三)と二間ビラキ。この手で左辺を黒3-七などと受けてもらえば、白は8-四あたりにカケて競り合いながら右辺になだれ込む予定だった木下さんは、4-十一と急所に一撃して先手で左辺を決める。黒43は一路右の3-七の方が白の薄みを狙われていやだったと、木下さんの感想にあった。

ここで白は待望の右上カカリに回る。黒1間高バサミに続く白46大ゲイマが予定の構想。黒は白に楽をさせないと16-四ブツカリ、白48のヒキを待って黒49と下ハネ。ここで白は単にかねての狙い17-十下ツケを敢行。姫はすぐ17−十一と割り込んだが、木下さんは「これはちょっと黒が辛いのではないか」と見る。白56までほぼ収まり形を得て黒57(14−四)の戸締りを許しても、最大の大場、下辺星に白58を配して十分な手応えを感じたようだ。(以下続く)

亜Q

(2010.9.9)


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