“奇士”Yの献身

確定申告書作成中の頭休めに『週刊新潮』を眺めていたら、将棋連盟会長のぶっ飛び話に遭遇した。創刊50周年を記念して、各界から同誌に貢献した50人に「週刊新潮と私」を寄稿させた特集の中で、個人的には「面白大賞」(例によって賞金・賞品なし)をぜひとも差し上げたい話。お読みになっていない方のためにさわりをご紹介申し上げよう。

平成15年、本誌ゴールデンウイーク号のグラビアをオールヌードの私が飾った。タイトルは「“奇士”引退?」。

この写真は実はその21年前(つまり今から24年前=筆者注)に撮影したもの。写真週刊誌『フォーカス』(週刊新潮と同じ新潮社発行=筆者注)が130万部も売れた全盛期に、私の知り合いの男の女性関係について記者が取材に来た。二人の不倫現場を押さえた決定的な写真があって、友人米長のコメントを入れて完成させる手はずだったらしい。

私は答えた。「これを記事にしたところで、二人の不幸な男女が誕生するだけではないか。この記事をボツにする代わりに俺の素っ裸はどうだ」。記者の話を聞いた編集長の決断は早かった。2時間後、「すぐに鳥取砂丘に飛んでくれ」。

かくして、40歳の男の肉体美が砂丘を躍動した。折しも熊本県から中年女性のバス旅行があり、「あら、双眼鏡を持ってくればよかったわ」と騒いでいたらしい。売れなくなった女優は脱ぐというけれど、勝てなくなった勝負師も脱ぐのだろうか——(以上で「さわり」は終わり)。

これを読んで真っ先に気になったのは、「不幸になりそうだった二人」とは誰か。記憶に生々しいあの話とすれば、もうそんなに年月が経ったのだろうか。それはともかく、バス旅行の中年女性たちが騒いでいたと断ずるノーテンキぶり、縁ある二人をかばおうとした男らしさ、その代案として自分の裸を売り込んだ厚かましさ、そのすべてが私的にはとても好もしい。会長のヌード話を最初に聞いた時は「何だかなあ」と苦々しく思ったものだったけれど、その舞台裏を聞いて評価が変わった。

どこか都知事に似ているような気がするヨネナガ会長について、私は以前にヒフミンとの「十段戦ミカン騒動」で触れたことがある。事に当たって速やかに自分の見解を旗幟鮮明にする、その発想が私のような俗人をしばしば仰天させる(碁界ではヨダ碁聖を彷彿とさせる)、そしてそれが必ずしも成功裏に終わらないーー。こんなカイチョーに率いられて、将棋界も是非元気になって欲しい。日本棋院や関西棋院にとっても良い刺激になるでしょう。

亜Q

(2006.3.12)


もどる