マヤ女の高笑い

 今ではすっかり憎たらしくなった私のガキにも可愛い時はあった。2つ違いの姉と弟が寄ると触るとじゃれ合い、1日中跳ね回り、家中に喜びをまき散らかしていた。
 長女が生まれて20回目を迎える子供の日、私の鋭い眼は世間のオヤヂ共有のどんぐりまなこに変わっている。その時、全く唐突にマヤ女の高笑いが聞こえてきた??。

 年齢不詳のマヤ女は、時として高校生にも見える若づくり。私が知らない最近の流行り歌などを歌わせるとまことに絶妙。言葉もはきはきとしているから、耳の悪い(音感はいいのだが)私にも歌詞がよく伝わる。だから彼女の高笑いはきれいなメロディーになる。コロコロとはじけ飛んで、ほんのわずかな屈託も入り込む余地がない。15歳を過ぎた男には金輪際真似することはできまい。

 この高笑いが私の原体験にあったのだ。下の男の子がお姉ちゃんの真似をしてピアノを習った。少々弾けるようになった頃、初級の教則本に「悲しみのワルツ」という曲があった。楽譜には子供が泪を浮かべている絵が添えてある。面白がって弾き始めた息子の背中から、私は「何だか悲しくなっちゃったんだ〜」と言いながら泣き真似を始める。曲が佳境に差し掛かると息子は張り切って高らかに演奏する。当然、私は激しく慟哭する。「オーイオイオイ、オーイオイオイ!」その時、息子がこれ以上はないという高笑いをやってのけたのだ。そう、今のマヤ女とそっくりな調子で。

 いつまでも若々しいマヤ女は、高段者が教示する局後の検討もそこそこに「でも私が勝ったのよね!」と一刻も早く高笑いの準備を始めるのだ。「マヤのオキ」「マヤのツブヤキ」「マヤのウナズキ」??。玄妙な秘儀を次々に開発するマヤ女は「高笑い」という究極の必勝法を手に入れたらしい。

亜Q

(2004.5.6)


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