書を捨てよ、野外で碁を打とう

桜の下で
桜の下で
「薔薇では死ねないけれど、桜の下なら」——。西行の歌をひも解くまでもなく、こんな想いは日本人なら何となく共感できるのではないか。

民主党の鳩山幹事長が新代表候補の小沢・菅氏らを鳩山会館に招いて花見の宴を催した。察するにこれは何やかやと政治的な思惑があったらしいが、当サイト管理人のかささぎさんはもっと粋な計らいを見せた。春たけなわの土曜日、勤務先の理化学研究所の大きな用水沿いに咲く枝振りの良い桜の木下にたっぷりとシートを広げ、我々を招待してくれたのだ。

理研と言えば、90年の歴史を誇るわが国唯一・最大の総合研究機関。基礎研究の成果を民間で実用化したリケン●●とか科研××といった企業がいくつもある。民間にも日立や東芝など由緒ある研究所はたくさんあるけれど、さすがに理研は筑波研究学園都市と並ぶ研究者天国。研究施設が散在する広大な敷地の中には決して小さくはない川(用水?)が流れ、その周辺に桜が群集している。当日は花見客のために開放されていたため子供連れの近隣客もかなり来られていたようだが、上野や新宿御苑などと違って酔っ払いやカラオケ騒音は一切なく、私のように静寂を好むオトナの花見としては最高の環境だった。

シートの上には大きな座卓に所狭しと酒・食料が並び、水割り用の氷も調達できるアイスボックスも置かれている。しかしこんなことは些細なこと。特筆すべきは、5面並べられた碁盤と、甲斐甲斐しくお酌をしたり碁の生徒になってくれたりする若き美女群の存在!

花の下に集まった善男善女はほぼ同数、総勢10数人。私を含む年長者組から20代前半の女性まで今が盛りの「壮・青」の集団。昭和元年生まれの元文壇名人・H画伯、若き院生修行経験者、さらに美人のお母さんに連れられて千寿会で研鑽する小学2年生になったばかりの佳歩ちゃんらが加われば、まさに老・壮・青・少・幼がそろうのだが、これは来年の楽しみに取っておこう。

どこかからか琴の音でも聞こえてきそうな雅(みやび)な雰囲気の中での碁会を兼ねた宴会を「この世の極楽」と言わずして何と呼ぶべきか。通りすがりの花見客の中には長い間立ち止まって真剣に碁を眺めたり、興味深げに子供さんが何度もそばへ来たり、中には飛び込み参加されて級位者の女性に挑戦される若い方もおられたり。シートの周りはさながら「花より碁」といった趣。

しかし花は風を誘う。日没とともに急に寒くなる。午後6時にお開きがいいところだろう。しかし日頃はまるで縁がなさそうな善男善女が碁盤を媒介にして心を通わせる素晴らしい一時(いっとき)。次回は来年と言わず、紅葉の季節にも開催したい。北国の方はこれからが春爛漫。梅、桃、桜が一斉に開花するそうだ。この機会に、人目に触れるところで碁会を開き、碁の素晴らしさを見せびらかして欲しい。

ところで、不意に我に返ればこの文章は「見せびらかし」だらけではないか。幼少の頃から私は見せびらかすことなど決してしない禁欲的な少年時代を送ったはず。かささぎさんの影響を受けて、いつの間にか自慢話が好きなオジンに成り下がっていたらしい。それもこれも、春特有のちょっとした変調。どうぞ大目に見ておくれぃ。

亜Q

(2006.4.6)


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