赤いグラスのいい出逢い

牧野昭一   総合企画   1997.11

 9月の21日(水)、台風15号の影響で夕刻には大雨大風が予想されていた。それなのに、東京駅近くの碁会所「いずみ囲碁ジャパン」で碁会があり、この日の昼過ぎに出かけた。
 家を出たときは、風はなく日差しもあるほどの天気であった。
 碁会所は空いていた。この日の会の主賓は欠席。それが当たり前だろう。無理して出て行ったわたしなどは反省せねばならない。
 夕刻になり、案の定台風が東京の西側を通って北へ向かっていた。台風が西側を通るときはさらに風が強くなる。電車は止まり、帰宅不可の状態になり、東京駅地下の商店街は人がいっぱい。
 わたしたち6人は6時ごろそば屋に入り、ちょっといっぱいのつもりでのんで、いつのまにやら10時過ぎ。ようやく台風も通り過ぎ、電車も動き出したので、店を出て帰宅した。
 この二次会はかなり盛り上がった。この日参加者の一人が意外な話を持ち出したのだ。そのひとつ。
 その女性の父親が作曲家の牧野昭一であり、父の書いた本を持ってきたのだ。ありがたく頂戴した。
 それが「赤いグラスのいい出逢い」である。出版社は北海道中標津町の会社であり、売れ残った本を引き取ったのだという。ことわっておくが、商業出版の本である。自費出版ではない。
 
帯に曰く
 私にはいい「出逢い」がいっぱいあった。そして、いろいろの別れがあった。「出逢い」は、虹のような七色に輝いたあと、だれの心にもいい余韻を残して消えていく…。
 この数え切れない「出逢い」の中から、とくに印象の深い人たちとの思い出やエピソードを書き綴ってみた。
 

 わたしも囲碁を通じていくつかの出会いがあった。この本を頂いたことも「いい出会い」のひとつ。その前に彼女の話を聞けたのが「いい出会い」で あった。
「出逢い」と書かれると双方が事前に約束していたようだが、この本では「出会い」の意味だ。

 赤いグラスという歌、とっさに判らなかったが、検索して聞いてみた。
   ♪♪いまーもーなをーー
 で思い出した。もともと歌詞を知らなかったが、このフレーズだけは、今もなを覚えている。

 唇寄せれば なぜかしびれる
 赤いグラスよ
 愛しながら別れて 今もなを
 遠くいとしむ あの人の
 涙 涙 涙

 最後の「涙 涙 涙」は「ああ涙」であったのを変えた、という。

 この「赤いグラス」は後に銀座のスナック「赤いグラス」に使ったり、本書の書名に入ったりしている。
 スナック赤いグラスは牧野さんのピアノ伴奏で歌が歌えるという、珍しいところ。もちろん今はない。
 ここに加藤正夫九段が来て、間もなく宇宙流の武宮正樹九段を連れて来た。それがきっかけで牧野家は囲碁一家になっている。千寿会の小林千寿さんも何度も足を運んだので親しくなっている。それが縁でわたしは千寿会で彼女に「出逢う」ことになったのだ。
 彼女は歌手として何曲かレコードを出している。その歌を聴いてみたいが、わたしはカラオケが苦手。いまもなを歌を歌えない。涙 涙 涙。

謫仙(たくせん)

(2011.10.10)


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