我が生涯のライバル〜M師匠の激白

 こう言っては何だが、俺は小学校以来ずっと人柄抜群の優等生で通ってきた。出身地の奄美大島は法曹界などに俊才を輩出してきた教育水準の高い土地柄だが、俺はその中でも島一番の秀才・モダンボーイとうたわれたものだ。周囲には俺の意見を聞きたいというよりも、スターにまとわりつくような気分でいつも人が集まっていた。もちろん女性からの人気は圧倒的で、優しい俺は彼女たちを分け隔てなく扱うのに結構苦労したものだ。

 ところが世の中には必ず俺の人気を妬んだり脚を引っ張ろうとする人間が出てくるものだ。その一人はカサイ・サギオという御仁。「M君に負けるな」と教育ママに厳命されたらしく、テストがあるたびに俺の点数を盗み見していた。そしてほとんどの場合、ふ、とため息をついてさびしげに立ち去って行ったが、ごくたまに俺より良い点を取ると、鬼の首を取ったようにみんなに触れ回っていた。その癖がついたのだろうか、俺が何かしようとすると、すぐに先回りして「みなさ〜ん、M君は変なことをしようとしていますよ〜」とある事ない事触れ回り、その足で先生にも告げ口するのだ。俺は言い訳をしたり、瑣末なことにゴタゴタするのが嫌いだ。おかげで、優等生の割にはかなり廊下に立たされた。

 もう一人はコーノ・レーブンという。女の子たちに俺が的確なアドバイスをしたりしていると、いつの間にか後ろから覗いて余計な口出しをする。例えば数学の定理や重要な解法を俺が説明して、「やっぱりこういう基本的なことは覚えてしまうのが一番だよ」と俺が言う。すると、すかさず後ろから「そういうことを頭ごなしに覚えようとしても無駄ですよ」。別の女の子に「誰でもできる国語なんかより英語を勉強したほうが将来役に立つよ」と俺が言うと、「それじゃあ、漢字の書き取りをして見てください」とえらそうな顔して恥をかかす。要するに行く先々で俺の発言に水をかけ、俺の面子を形無しにしてくれるのだ。

 この傾向は、俺も尊敬するプロフェッショナルな棋士が手塩にかけて育てたかわいいサヤカ嬢を、こともあろうにレーブンの奴がお嫁さんにした時から特に顕著になった。「Mさん、それでは女心を知らなさ過ぎますよ」とか「やっぱり世帯を持たないと人間の幅ができないんだよね〜」などと聞こえよがしにつぶやくのだ。何よりも不愉快なのは、俺の言動を冷ややかに見て「ふ」と肩をすくめてニタリとする彼の忍び笑いだ。

 あ〜、しゃくに障るぅっ!かくなるうえは、俺もサヤカ嬢に負けないぐらいのかわいい嫁さんをもらわなければ腹の虫が治まらない。優越感に浸りきったレーブンの鼻を明かしてくれようではないか。でもねぇ、三十路をとおに過ぎ去った俺の周りに集まるのは今や妙齢のご婦人ばかり。マヤ女にせよ、ミッチーにせよ、いい女はたいてい人妻だし。この際思い切ってぐんと若い子を照準に当てよう。トゥルーラブさえあれば歳の差なんて関係ない!カナ、アユミ、コズエ、カオリ、カオル、誰でもいい。頼むぅ〜。俺の妻になっとくれ〜!!

亜Q

(2003.11.23)


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