究め遂げよ、"下島陽平の二刀流"

下島陽平七段(左)と秋山次郎八段(右)

まずは囲碁格言クイズに挑戦されたい。
本サイトを覗かれた賢明なる変人諸兄は、次の(~)にどんな言葉を当てはめるかな?

1.貴重なるかな(~)
2.逃げは(~)、追うは(~)
3.大きな模様は(~)

前座を務めて我が珍答を告白すれば次の如し。それほど違和感はないやろ?
1.「コウ材一つ」または「空きダメ一つ」
2.「早めに」、「じっくりモタレ」
3.「囲わない」

お笑いの本場、関西で活躍される人気棋士による印象的な回答もご披露しよう。
棋戦リーグで活躍される瀬戸大樹七段は、1→「残り時間」
「西のキムタク」と言われる倉橋正行九段は、3→「気をつけろ」
いずれもフェスタ会場を大いに沸かしてくれた。

出題者の下島陽平七段が例示された正解はこれ、なるほどでした。
1.「ハネ1本」
2.「一間」、「ケイマ」
3.「浅く消せ」

これは、6月8~10日の3日間、140人のアマ棋客を集めて開かれた「2012ファンフェスタin箱根」の夕食交流懇親会でのイベントの一つ。下島七段が中野祐紀インストラクター(NHK囲碁講座「闘いの碁力」でおなじみの中野寛也九段のお嬢さん)をパートナーに司会進行を務め、同フェスタに参加された8人のプロ棋士がさまざまな難問に挑む趣向だ。

まずは、石が込み入った局面を数秒間見せて隠し、その後の正解手順を示してもらう「瞬間記憶脳内読みきり対決」。清成真央初段(ご存知、清成哲也九段の令息)vsNHK杯聞き手の下坂美織二段、瀬戸七段vs最近棋聖リーグで活躍された秋山次郎八段が闘い、それぞれ前者が勝利。もちろん、敗者もタッチの差で正解。碁盤の3分の1ほどを埋め尽くした局面、手数は10数手に及ぶ複雑な手順をほぼノータイムで読みきるプロのすごさを目の当たりにすることができた。

初めての共同作業中の山城九段

次は、九路盤対局が10手進行した時点で終局時にどちらが何目勝ちかファンに予測してもらい、対局者同士が相談せずにあくまで"手談"を交わしながら予測通りに終局させる「初めての共同作業」。中部総本部の総帥格、山城宏九段と謝イーミン女流二冠の歳の差ペア、倉橋九段と下島七段の弟弟子、大沢健朗初段のイケメンペアが別々に対局してそれぞれ首尾良く終局したが、時間の差で前者が勝利した。敗れた倉橋・大沢組も「大沢君とはとても気が合った」「憧れの倉橋先生と共同作業できて感激しました」とエールを交換していた。

そして「囲碁格言対決」を挟んで最後のゲームは、1~50手までの布石を読み上げ、目隠しした棋士にある局面の「次の一手」を当てさせる「音声布石サバイバルバトル」。8人全員が参加して間違えると脱落、そして50手まで進んで勝ち残った3人の棋士に課されたのは「次の一手」ではなく、「既に打たれた●手目」を当てるという超難問。新婚早々の秋山八段が見事優勝、準優勝は瀬戸七段だった。

"本邦初公開"の趣向が凝らされたクイズの出題・監修者は下島七段。これまでフェスタ主催団体の中小企業レクリエーションセンターとの打ち合わせ、企画・運営、講師との折衝などを主導されていた孔令文六段が、中国乙級リーグ戦に初参加する日本棋士団(団長はチクン大棋士)の世話役を務めるなどで多忙をきわめるため、代役を一手に引き受けられたようだ。

その下島七段とは、中部総本部で弟子育成に貢献されている吉岡薫七段門下の内弟子を経て四段になられた15年ほど前に初めてお会いした。当時は四段以下と五段以上は予選のシステムが違っていたが、下島四段は勝数、勝率とも常にベスト5におられたと記憶する。地にこだわらない独特の空中戦感覚を武器に、スケールが大きい闘いの碁が注目されていた。

平成15年に七段に昇り、結婚、長子誕生を経て数年前から富山県の囲碁普及に乗り出し、毎週片道2時間半ほどかけて名古屋-富山間を往復されている。幼稚園児を抱える家庭と手合いを両立させながらの活動はかなり骨が折れるに違いない。事実、下島七段は「ある時、自分の碁が荒れていることに愕然とした」と言う。苦悩の末、「自分が選んだ道を一生懸命務めるしかない」と達観して気持ちが楽になり、本職の囲碁手合いの成績も上昇したらしい。最近は山城九段や中野九段らと最終予選から本戦入りを賭けての手合いが急増し、「勝ったり負けたり」が続いている。先輩のトッププロと互角に渡り合えれば念願のリーグ入りも見えてくる。差し当たりの目標は、現在山下道吾本因坊に井山裕太天元が挑戦している第67期本因坊戦七番勝負に続く第68期本因坊戦最終予選。6月14日に大場惇也六段との手合いが予定され、さらに黄イソ八段ら2人を破ればリーグ入りが叶う。

囲碁界にとって最も重要な課題は囲碁人口およびマーケットの拡大だと思う。それには人気棋士、特にトッププロの理解と協力が欠かせないが、手合いが忙しいトッププロは最大限協力はできても自ら陣頭に立って活動するのは難しい。そんな中で「ヨンロノゴ」を大ヒットさせた張ウ棋聖の活躍ぶりが特筆されるし、女流や若手棋士の間でもいろいろな催しを試みる動きが出てきたのも喜ばしい。下島七段も、トッププロへの挑戦と普及活動の主導という「二刀流」をぜひとも究め遂げて欲しい。

亜Q

(2012.6.12)


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