謫仙楼対局 中国ルール

黒 靖   コミなし
白 謫仙

 今黒▲と切って(?)きたところ。大きく勝っていると思っていたので、黒▲の左に「勝ちました」と言って終わりにするのがよかったが、手がないと読み切り白1と打った。割り込んできても断点が二カ所あり問題ない。
 靖さんには定先にしてもらった。今までは白がコミを出していたが、今回はコミ無しである。
 それが黒にとって無言の圧力になるらしく、いつもより厳しくやってきた。そのためかえって白は打ちやすくなり、ここでは白は20目近くリードしているのではないかと思う。

 黒1とワリコミ。どう打っても間違いないと思っていたので、形よく白2と引く。
 黒3となっても、読み筋通りと思いこんでいて、考えず白4と切る。黒5となって、読みの穴に気がつき愕然とした。
 白2ではなく黒3のところから切ればなんの問題もないではないか。進行図も読んでいたが、読み切って問題ないと思っていたのだ。思いこみの恐ろしさよ。
 結局、白は五目も足りなくなってしまった。

    …………………………
靖「ところで、中国ルールではコミは7目半。6目半はないといいますが、人によってはあるという。意味判ります? 中国ルールはどう違うんです?」
謫「中国ルールは盤上の石と地を数える。目は全部で361でしょう。白と黒の石と地の合計は361になることになる。奇数だよね。もし、
 黒181ならば白は180で、差は1目。
 黒182ならば白は179で、差は3目。
 黒183ならば白は178で、差は5目。
 黒184ならば白は177で、差は7目。
必ず奇数差になる。だからコミ6目半にしても、5目半と同じことになるンだ」
靖「なんだ、そんなことだったんですか」
謫「ただし、セキがあって、ダメが1目あると偶数差になる。そんな時は6目半が意味を持つ。まあ例外だな、でもないわけではない」
7路盤を書いて並べた。

謫「これで終局してダメを詰める。日本ルールなら白は8目、黒はアゲハマ1目で埋めて8目。持碁だよね。中国ルールではダメ詰めの石も数えるんだ」
靖「黒25目で白は24目、黒1目勝ちですね」
謫「だから黒3は出入り2目になる。黒がパスして白3となれば白1目勝ち。石を数えるということは、地をアゲハマで埋めても同じだよね。だから対局中にアゲハマは返しても問題ない。反復禁止など細かいところが違うようだが、ほとんど同じになった。ただ、計算例のように、日中では1目違うことがある」
靖「それで、0.75っていうのは何です?」
謫「ああ、それね。今の説明は日本の数え方で計算した。中国式では、361を半分にして180.5。これを基本にする。黒が184目ならばその差3.5子勝ちと計算するンだ。日本式なら7目、半分になるでしょう。2目が1子に相当する」
靖「すると7目勝ちは3.5子勝ち? コミ7目半は3.75子?」
謫「そういうことになるね。注意するのは、セキでダメがあれば半分(0.5子)にして数えること。そうしないと白石扱いになってしまうから」

     …………………………
 先日、ドラマ『碧血剣』を見ていたら、『可以贏他三個子』という科白(字幕)があって、日本語字幕は『…三目勝てた』となっていた。これだと三子が三目。
前に笑傲江湖の碁で、王積薪の話の中に、老婆が「わたしが九子勝ちましたよ」と言った、と 書いた。
 囲碁ルール博物館に次の文があった。…は省略した。
…文献に残された中国の古碁は全て日本式と推定できるでしょう。…
それが「明」の時代に中国式に変わったように見えます。しかし、さらに歴史を遡ると、孔子や孟子の時代の碁である「エキ」はどうやら中国式であったようなのです。…

とある。
 つまり上の碧血剣の三子や王積薪の話の九子は、日本式に三目・九目と考えてよさそうだ。

 推測を補足すると、「明の時代に中国式に変わった」とするなら、それは旧中国ルールと思われる。
 白12・14・16はパス。石だけ数えて黒23、白20で黒三目勝ち。
6カ所の空点は数えない。ここに石を入れると死んでしまうから。この空点を「切り賃」といった。
 実際にはここまで打たず、終局後「切り賃」はコミとして数えたようだ。
 空点を地として数えるようになったのが、現代中国ルール。これで日中の差はほとんどなくなった。

謫仙(たくせん)

(2008.2.20)


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