謫仙楼対局 基礎の死活

白 謫仙
黒 小東邪 五子

 もうヨセも終わりかけている。形勢互角であろう。
 実は後手2目が2カ所、後手1目が2カ所あったのだが、それは打ったこととした。
 残る場所は3カ所。下辺右の三目抜きが8目。右上ハイの大きさが判らないが8目よりは小さいと見た。これは死活を見損じていた勘違い。おそらく8目で同じらしい。

 襄ちゃんは高校生だ。両親は仕事で忙しく、週末でさえ家にいることは少ない。
 わたしたちは小東邪と命名する。
 高校生になって囲碁部に入った。そして聖姑といっしょに謫仙楼に来る。
 今はわたしに5子程度であろうか。それでもときどきはっとさせられる。
 聖姑と小龍女の対局は終わり、小龍女は台所に立ち、わたしたちの碁を聖姑が観戦した。

 白1と抜くと、黒は2と下がる。
 深く考えず白3と打ったのが死活の見損じであった。小東邪は黒4と打つ。こう打たれると、この白は死んでいるではないか。ここは白は1−1で活きなければならなかった。
 詰碁として出題されれば判らない人はいないだろう。それが初めて実戦で現れ、白3で活きていると錯覚してしまった。それゆえ小さいと思ったのだ。
 白5・黒6。正しく打たれて投了は余儀ない。
「わー、勝った勝った」
「そこを正しく打ったとは強いわよ」と聖姑。
「乾杯・乾杯。謫仙酒出して」
「小東邪はまだ高校生でしょう、お酒はだめ」
「聖姑姉さんは、高校生の時飲まなかったの。飲まなかったと断言できるなら、わたしも止める」
「…仕方ないわねえ。じゃ台所でお龍さんを手伝って」
 小龍女はお膳の準備をしていた。
 小東邪は本当に飲めるわけではない。孤食になれた小東邪は、みんなでわあわあ言いながら食卓を囲むのが好きなだけだった。
「1の1に打って活きていたらどうだった」
 見ていた聖姑に言う。
「白がよかったと思うけど一目か二目、白2を先にしたら」
数えてみるとどちらも白が一目余したようだ。
 聖姑は盤上に石を並べる。

「小東邪は先日、下は1とためらいなく打った。上も2と間違えず打つ。経験不足で戦いに弱いけど、こういうところは間違えない。かなり強くなるんじゃないかな」
 これが、石田章九段のいう基礎筋力であろうか。

謫仙(たくせん)

(2007.11.4)


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