観光立国!

政府は「観光立国」の実現に向け、年内に省庁横断の対策本部を設置する。前原国土交通相が本部長を務め、経済産業省や厚生労働省などほぼすべての省庁から副大臣が参加して、中国からの訪日観光客を増やすために中国人向け個人観光ビザの入国条件を緩和するなど、複数省庁にまたがる懸案を解決していくのだそうだ。

政権交代を果たした民主党が厳しい財政情勢の中で果敢に新政策に挑み、過去の不都合を洗い直して改革しようとする姿勢は、細かい問題を抜きにして長い目で応援したい。でも、「立国」とはちょっと大げさ過ぎない?喩えが適当かどうかわからないけれど、生前の三島由紀夫が「俺はこれから、石原裕次郎の向こうを張ってアクションスターとして生きる!」とでも宣言したみたいな違和感がある。

一国の理念とか存在基盤を象徴する「立国」などという表示は一つの国に1つ、せいぜい2つまで。大安売りされては困る重い言葉だろう。もしも日本が目指すべき「○○立国」を国民投票で募れば、ひと昔前なら「貿易」とか「経済」、今なら「科学技術」とか「環境」あたりが上位を占め、「観光」はベスト10に入るかどうか。むしろ南太平洋あたりの風光明媚な小国に敬意をもってお譲りしたい。

そもそも、ビジネスやその他の必然的な理由を除いて、観光のためにある国を訪れたいという理由はその国が魅力的だから。風土・習慣、歴史、そして一人一人の国民性などを総合した国の姿が異国への憧れを掻き立てるのではないか。治安・衛生環境や円高かどうかなどはその意味からすれば二の次、いわんや入国手続きなどは当然実施すべき瑣事だと思う。

つまり、日本の魅力をさらに充実し、外国人に日本を理解してもらうための努力を続け、そうした活動や成果を世界に発信していくことこそが「目標」になるべきで、この目標に突き進む過程で結果的に観光客は増えてくる。前原さんの熱意と誠意は疑わないけれど、「観光立国」を目標に据えるのは因果関係が逆転している。偽メール事件の印象が冷めやらないせいかもしれないが、どうも危なっかしい。「立国」と勿体づければ国民は理解してくれるし、予算も確保しやすいとほくそ笑む役所や関係業者の顔が浮かんでくるのは、私の品性が卑しいからだろうが。

この目標を「○○立国」と表現するなら、「○○」は「文化」としたい。「文化」と言えば、地球上には国の数、いや、民族や地域の数だけ存在することは知っているつもりだが、それでもなお、日本には世界に誇る「文化」がたくさんある。フジヤマに代表される自然、京都・奈良をはじめ各地に点在する歴史遺産をはじめ、芸術・芸能、文学、衣食住の文化、漢字や仮名、科学技術や環境対策なども含まれるだろう。最近ではマンガやファッションなどもクールジャパンの大きな要素になっているらしい。

もちろん、人類のかけがえのない知的遺産である囲碁も不可欠なメニューの一つ。日本以外では埋もれかけていた囲碁を10世紀以上にもわたって育ててきたのは事実だし、国際普及にも貢献してきた。これからも世界トップ水準のレベルを維持するだけでなく、世界中の人々が囲碁の素晴らしさに触れてもらうための仕組みづくりを、国を挙げ、各国と協力し、プロはもちろん、囲碁の機微に触れたアマも一心同体で築き上げていきたい。

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このたび、囲碁界最大の貢献者の一人、梶原武雄九段が亡くなられました。
木谷門で多くの俊才を育て、アマチュアに対しても独特の気配りをされる偉大な棋士だったと思います。

弟弟子たちへの愛の鞭は雷のごとく、それでもどこかやさしい人柄が慕われていたと聞きます。
同じ師範格の杉内雅夫九段から静かな声で「お帰りなさい」と不勉強をたしなめられる方がよほど怖かったそうです。

梶原オワ先生には本欄でもずいぶんご登場いただきました。改めて2題をご紹介して、ご冥福をお祈りいたします。

苦手な相方(あいかた)
毒舌今なお意気軒昂~~中山典之六段出版記念会から~~

亜Q

(2009.12.3)


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