突撃!ずっこけインタビュー その2

大竹、石田、武宮、木谷門下の巨星たち
大竹、石田、武宮、木谷門下の巨星たち
大竹総帥の意を受けたのだろうか、会場にはやたら女流棋士が目につく。ついつい私は配布されたパンフレットの写真と実物の先生方を比べて悦に入る。この中で最も面変わりされたのはどなたかな??。ここは武士の情け、ベテランのお姉さま方にはご遠慮申し上げ、私のウルトラアイは若手女流棋士をめまぐるしく検索にかける。と、際立ってあか抜けた感じのお馴染みの顔が見つかった。

囲碁将棋チャンネルなどで活躍中の向井梢恵(こずえ)さん。この10月3日に21歳になったばかり。後を追ってプロ入りされた姉の芳織(かおり)さん、妹のチアキさん(3歳違いで並ぶ3人姉妹、皆さんとても気立てがいい!)が静かでしっとりした印象なのに比べ、どこか人懐っこい感じで話しかけやすい(梅沢由香里さんのブログに向井三姉妹の写真が掲載されています)。私は「司会がどんどんうまくなっているね」と平凡な枕詞でとりあえず打ち解け合ったことにして、すぐに「ところで、カラオケでは何を歌うの?」と踏み込む。その答が古狸(もちろん私)の意表を突いた。 「さだまさしさん」??。

放送局でもまれた証だろうか、梢恵さんはさすがに気配りができている。フツーのオジサンなら誰でも知っている歌手をノータイムで挙げてくれた。それにしても、モモエ・セイコ・アキナ・キャンディーズ・ピンクレディーあたりならわかる。よりによって、頭髪の厚みが激減しつつある「さだまさし」オジサンとは!歳を経た古狸は若い人の前で内心の感動をあらわにはしない。「愛唱歌は『関白宣言』それとも『無縁坂』、『精霊流し』あたりかな」とさりげなく打診すると、これまた懐かしい『雨宿り』と即妙の返事!!

「それは〜まだ〜私が神様を信じていなかった頃〜」で始まるあの曲が大ヒットした頃、梢恵さんはまだこの世に影も形もなかったはず。歌の好きな母上にでも教わったのかもしれない。家の軒先で偶然雨宿りしていた彼に傘の代わりにスヌーピーのハンカチを貸し、その後初詣に出かけた時に着物の裾を踏みつけられて劇的な再会を果たし、少し親しくなって家に招くと彼の靴下にはぽっかり穴があいていて家人にしっかり見られてしまう??ドジだけれど、笑うと虫歯がきらりと光る素敵な彼にめぐり会い、突然求婚されて思いっきり気絶したい。梢恵さんは今、そんなお年頃なのだろうか。

お隣には、若く聡明なキャリアウーマンそのもののハン・コンユさんが座っている。将来は日中間の架け橋として実業の世界でも活躍しそうな雰囲気を漂わせるが、私には「お兄さんのゼンキ七段はNHK杯でカミソリパンチを見せましたね」ぐらいしか話題を思いつかない。そこへ同年代の加藤啓子さんが登場、私の顔を見てハッとしたように(自意識過剰の私には)見えた。「ボクを覚えている?ホラ、今年になって何敗したか聞いたでしょ」(本ページ「本因坊就位式風景・その2」に関連記事)と話しかけると、「あれはどこでしたっけ」と返ってくる。「その後負けが込んで…。やっぱりバイオリズムなのかな。でも、私は勝とうが負けようが、過去を忘れることにしているのです」と会話が流れ始めた。残念ながらその時は気付かなかったのだが、翌日『週刊碁』(10月17日号)を見ると彼女は女流ナンバー1の23勝を稼いでいるではないか!(2位は小林泉美さんの21勝)。ヤッシー(矢代久美子五段)が三十路を目前にして女流本因坊タイトルに王手をかけたように、この人もここ1年内に大ブレークするだろう。

大ブレークと言えば、中央舞台に近いテーブルに若い頃のビル・ゲイツ(今よりずっとやせて独特の“硬質感”があった)を思わせるコーイチ門下の若きホープ、河野臨さん(24)の姿。Davidがさっそくサインをねだると、首の付け根からかかとまで1本芯が通ったような姿勢を崩さずひと筆ごとにしっかり間を置いて丁寧に楷書で書き込む。コーイチ流の血を最も受け継いだように見えるこの若者はこの時点で33勝8敗の好成績。3歳年上の敬吾天元との初の5番勝負ではこの“硬質感”が強い武器になるのか、それとも硬さになるのか。

臨さんとは好対照なやわらかい印象だったのが2歳年上のライバル、金スジュン兄貴。私は虚礼を好まないから、タイトルマッチ5連敗の末にやっとつかんだ新人王を「おめでとう」とは言わない。それより何より伝えたいのは「悪役のススメ」。hidew論客が主宰するサイト『voice of stone』で悪役待望論を唱え、その候補としてセドルらの韓国若手に混じってスジュンさんが挙がっていたのを伏線に、「碁界には今こそ悪役が必要。是非ともスジュンさんが立候補して欲しい」とお願いすると、スジュンさんはすぐ興味を示し、「どうすればいいの?」と具体的な方法論に踏み込んでくる。「例えば、ウックンでもケーゴでもタカオでもハネクンでも束になってかかって来い」と公の場で挑発してどんどんやっつけまくるのだと説明すると、傍らから声あり。「ダメダメ、彼は人一倍お人よしなんだから」。何とさらに2歳先輩の武宮ヨーコー五段ではないか。これはこれは、この間は失礼いたしました(「本因坊就位式風景・その2」参照)。改めてスジュンさんの顔を見れば確かに好人物そのもの。青葉嬢あたりと名コンビで碁界を盛り上げていただく方が本手かもしれない。

言ったそばから考えが変わっていく私の数少ない欠点が顔を出した。居心地が悪くなった私のそばを松本武久さんが折り良く通りかかる。「NHK杯では魅せてくれましたね」と呼びかけるとまだ童顔が残る笑顔を見せてくれる。「異才・松本のファンが増えたでしょう」ともみ手をすりすりすると、「いえ、まだまだ全然ダメです」と初々しい。「あれはやっぱり解説者が良かったですね、どなたでしたっけ〜」と太鼓を叩けば、背後のスジュンさんの耳がダンボみたいに大きくなった気配がした。

亜Q

(2005.10.13)
(2007.10.23 一部修正)


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