『AERA』に取り上げられた「囲碁ガールの“恋愛格言”講座」

AERAの記事(AERA-net.jpより転載)

 碁石を挟む指先のネイルアートがキラキラ光る。東京・麹町の雑居ビル4階にある碁会所「ダイヤモンド囲碁サロン」。週末の夜、30人近いスーツ姿の中高年男性客に交じり、仕事帰りの若い女性たちが碁盤に向かっている。普段は都内の民間企業で働いているH.Oさん(23)もその一人だ――。

 洒落た、と言うよりいかにも書き慣れた調子で始まる「囲碁ガールの“恋愛格言”講座」と題した見開き2ページの記事が『AERA』2月6日号に掲載された。「むやみに攻めず“味”を見よ」とのサブタイトルで補足している。囲碁をたしなむ「囲碁ガール」が増えている。囲碁と恋愛、共通点があるのではないか、というのが記事の狙いらしく、女性同士の対局で整地が終わり、にっこり微笑む若い女性(H.Oさん)の写真が記事に彩を添えている。

 冒頭に、現在の棋力6級、初段を目指すH.Oさんの日常をさりげなく紹介。通勤前にカフェで棋書を読み、iPadには囲碁のアプリをダウンロードして通勤途中に打つ。そして時間があれば仕事帰りにサロンに寄って、終電間際まで対局を楽しむ。ハッピーリタイアメントを機に囲碁三昧生活を謳歌されている千寿会の打ち手、梵天丸さんにも引けをとらないのめり込みぶりだ。

 日本生産性本部のレジャー白書によると、2010年の囲碁人口は610万人。将棋人口(1200万人)のほぼ半数だが、20世紀から21世紀への変わり目の頃「ヒカルの碁」が人気を集め、囲碁に興味を持つ子供たちが大人になり、再び囲碁を楽しんでいる。それが最近の「囲碁ガール」にも結びついているらしい。H.Oさんも「ヒカルの碁」のファンだったという。

 次に「囲碁ガール」の登場を促したと紹介されたのが、囲碁の普及活動団体「IGO AMIGO」が08年から年1回発行しているフリーペーパー「碁的」。囲碁と言えばムンムンとするような“おじさん色”を一掃して「知的マガジン 頭の中からキレイをつくる。」と謳って若い女性の眼を碁に向けさせた。ファッションモデル風に装った万波姉妹を表紙に飾った第3号、4号(10、11年発行)あたりから「かわい過ぎる囲碁雑誌」として評判を勝ち得たようだ。千寿会講師の“東の貴公子”こと高梨聖健八段も青少年向け恋愛講座「愛のゆるみシチョウ」と題する定番コラムで人気を高めたようだ(本ページの「某月某日、“亀梨先生”のつぶやき」をご覧ください)。

 そして記事の中核となるのが「囲碁“恋愛”格言」。囲碁インストラクターの王真有子(まゆこ)さん(34歳、千寿会講師のY.O棋士の奥様かも?)が記者と協力して創り上げた、囲碁を恋愛に結びつける苦心作だ。例えば、「むやみに攻めずに味を見よ」→「むやみに攻めずに連絡を待て」、「攻めの基本はカラミとモタレ」→「「本命の彼にはカラミとモタレ」、「狙い過ぎては大勢を失う」→「狙い過ぎては彼を失う」、「ダメの詰まりは身の詰まり」→「ダメの詰まりは愛の終わり」といった具合。オジサン世代には少々気恥ずかしくなる内容だが、対象読者である『AERA』を読む若い知的女性に受ければそれでいい。

 ところで、こうした記事に触発されて囲碁を始める若い人(男性も含む)が、1、2年後どの程度碁を続けていられるだろうか。私の
ささやかな体験では、100人に10人いるかどうか、さらに中級から上級、有段者へと進む人は片手で数えられるほどに減っていく。「お洒落でかっこいい」からといった動機では、世の中に面白いことがたくさんあり過ぎる若い世代のほとんどの人が挫折するだろう。それでも、100人のうち2、3人でも残れば十分だと思う。挫折した人でも、近い将来子供のPTAなぞに出席して何かの拍子で囲碁が話題になったとき、「私も昔ちょっとかじったのよ」などとくちばしを入れていただくだけで随分違う。

 その意味で、この記事をまとめていただいた『AERA』の野村昌二記者には、日本棋院、関西棋院に成り代わってお礼を申し上げたい。商品やサービス(国や大統領候補の魅力から原発、消費増税、TPPなどの施策についても同様)を一般大衆に売り込む最大の武器は「広報活動」にある。お金を出してテレビや新聞・雑誌に「宣伝」をすることはたやすい。しかし、中立・公正な一般報道で取り上げられるのとでは、(宣伝費がかからないだけでなく)信頼性と広がりにおいて格違いの効果がある。以前私は、卒寿を迎えた杉内雅夫九段(大正9年生まれ、当時89歳)が後に新人王に輝いた白石勇一四段(当時二段)との年齢差64歳対決を制した対局をビッグニュースと興奮して当ページに紹介させていただいた(http://www.senjukai.org/Zakki/BigNews.html)。日本棋院、関西棋院のご両所にはこれからも一層広報活動に眼を向けられることを望みたい。

亜Q

(2012.2.13)


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