"新婚効果"を検証した!

高梨聖健八段との結婚後、関西総本部から東京本院に活動拠点を移された井澤秋乃四段が初めて特別講師として登場された先日の千寿会。手ぐすね引いて待ち構えていたかささぎさんが3子で挑戦して見事4目勝ちを収められた。好敵手の私だってもちろんうれしい。もしかすると、ほんの数週間お手合わせいただかないうちに腕を上げられたのかもしれない。ところが、「黒の名局です」と言われて手放しではしゃぎまくるかささぎさんの姿を見ているうちに「待てよ、これは気配り・秋乃先生が初講師にあたってのご祝儀ではないだろうか」と気がついた。

半信半疑でかささぎさんにお手合わせを願うと、何のことはない。普段とまるで変わらない楽観的な打ち方に終始された挙句、「途中まで気持ちよく打っていたのにぃ」と嘆きながら、かささぎさんはあっけなく私に投了を告げたのだ。結果として、「3子置けばしばしばプロ棋士に勝てる」と大いなる勘違いに陥るところだったかささぎさんを、私は友人として水際で阻止して差し上げたことになった。言うまでもないことだが念のため付け加えれば、これは断じて私の"ヤキモチ"なぞではない。めったに起こらない出来事に遭遇すると、「果たしてそれが再現性のある真理かどうか」をきちんと検証せずにはいられない子供の頃からの性分がなせる業でした。

この崇高な科学スピリットが、秋乃先生も加わった恒例の飲み会でも顔を出した。秋乃先生と聖健八段の結婚式は昨年の12月初め。新婚ほやほや期間が落ち着き始めた4ヶ月後に当たって、新婚効果の進捗具合を検証してみたくなった。ただし、事は慎重を要する。勘が鋭い秋乃先生に私の取材目的(つまり下心)を知られると、決して本音を見せてはいただけないだろう。あくまでもさりげなく、成り行き次第の普通の会話で。会もたけなわになった頃、私は秋乃先生ににじり寄り、「聖健先生は結構カンサイ弁がうまいのとちゃいますか?」と尋ねた。秋乃先生はパッとうれしそうな顔をされ、「もう日常会話や」。そう、聖健先生は「ミスチル」にしろ「ゆず」にしろ、どんな歌でもすぐ覚え、しかもとてもうまい。音感がいいから、近くにいる人の言語をすぐにマスターするのだ。Just like me=ちょうど私のように。

日常会話に秋乃流がジワリと浸透していることを確かめると、次の質問は得意な料理。「頭のいい女性は料理がうまい」とか「中部総本部の中根直行八段は金賢貞二段と新婚早々の頃、おいしい料理を毎日食べて勝率も体重も鰻登りだった」なぞと前振りしたせいか、秋乃先生は少々答えにくそうにしておられたが、新婚生活を雄弁に物語る当意即妙な変化球が飛び出した。利き手の左手の五本指をひらひらさせながら、「体重が5キロも増えましてん」。もちろんこれはご自身のことではない。愛する夫、聖健八段の体重に他ならない。「4ヶ月で5キロ増」とは半端ではない。八段に昇段されて以来、10年間に及ぶ雌伏を強いられてきた聖健八段は結婚を機に大いに飛躍されることだろう。

食い過ぎ、飲み過ぎをいつもやかましく文句を垂れる私の古女房とは違って、秋乃先生は腕によりをかけて愛する夫に料理を作り、もりもり食べる姿をニコニコ見守っておられる姿が目に浮かぶようだ。それにしても、独身時代の聖健八段はどんな食生活を送られてきたのだろうか。以前にもこのページで紹介させていただいたが、聖健八段は手合い日の昼食を抜いたり、食べに出かけてもろくにメニューを見ずに注文して「たぬきそば」をかけこんだりされていた(参考)。だから肉付きと髪の毛の量は、私と足して2で割ればちょうど良くなる関係にあったのだが――。

亜Q

(2012.4.13)


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